東北大学と東北特殊鋼は9月5日、固体高分子形燃料電池(PEFC)を健全に作動させるために重要な、純水の流れを制御する電磁弁鉄心用の快削高耐食性電磁ステンレス鋼を共同開発したと発表した。

PEFCでは、電解質膜の加湿、水素を発生させるための都市ガスの水蒸気改質、電極の冷却などのために純水が使われる。この純水の流れを制御する電磁弁の部品の腐食や材料成分の溶け出しなどによって水質が劣化すると、発電性能の低下を速めることから、これらの部品には水環境で高い耐食性を持つ材料が使われている。そのような高耐食性と優れた磁気特性(電磁弁を動かす電磁石の鉄心としての性能)を持つ材料として、東北特殊鋼の電磁ステンレス鋼「K-M38」が広く使われているが、高い耐食性を持たせるために、主要組成(18Crなど)以外には、マンガン硫化物(MnS)などの切削性を良くする成分をほとんど添加していないことから、電磁弁メーカーなどから切削性の改善を要望されていた。

東北特殊鋼は2001年に、東北大、産業技術総合研究所(産総研)東北センター、および大同特殊鋼と共同の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)補助事業で、鉛フリー快削鋼の開発を目的として、チタン炭硫化物(TiCS)分散型快削鋼を開発している。その際、元々鉛含有鋼ではない「K-M38」について、TiCS分散型の「K-M38CS」を試作したが、同鋼種の快削化ニーズがまだ顕著ではなく、実用化開発には進まなかった。

その後、「K-M38」の固体高分子形燃料電池部品用材料としての普及が進み、切削コストを下げたいとのメーカーの要望が強くなってきたことから、東北特殊鋼は金属材料中の硫化物の電気化学的性質に詳しい東北大学大学院 工学研究科の原信義教授に、固体高分子形燃料電池を模擬した水環境(80℃、超純水)での「K-M38CS」の耐食性と成分元素の溶出挙動について評価を依頼した。

その結果、「K-M38CS」はチタン炭硫化物が分散しても、「K-M38」と同等の耐食性を有し、代替鋼として使用可能であることが確認されたため、詳細を9月24日に開催される腐食防食学会主催の「第60回材料と環境討論会」で発表するとともに、試作材を電磁弁メーカーのサンプル評価に供しながら、順次量産へ移行することにしたとしている。