東京都医学総合研究所(都医学研)は8月21日、「大脳基底核」と「前頭葉連合野」が目的決定や動作選択の節目を捉えて情報を処理する一方で、前頭葉連合野が処理結果を保持するという特徴を明らかにし、大脳基底核と前頭葉連合野が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の保持」という高次脳機能の2大要素が達成されることが示されたと発表した。

同成果は同研究所の星英司プロジェクトリーダー、有村奈利子氏、中山義久氏、山形朋子氏、丹治順氏らによるもの。詳細は米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。

大脳基底核は脳の深部にあり、行動制御において中心的な役割を果たす前頭葉と複数のループ回路を形成しているほか、前頭葉の後方部には一次運動野があり運動実行において主要な役割を果たすことが知られており、これまでの研究から、一次運動野が大脳基底核と形成するループ回路(運動系ループ)の動作実行における機能についての理解が進められてきた。

一方、前頭葉の前方部にある前頭葉連合野(前頭前野、高次運動野)も大脳基底核とループ回路(連合系ループ)を形成しており、高次脳機能において重要な役割を果たすことが示唆されてはいるものの、その連携の実態は不明のままであった。

前頭葉と大脳基底核をつなぐループ回路には複数ある。青が運動系ループ、オレンジが連合系ループ

今回、研究グループはその解明として、行動の目的決定と動作選択といった高次脳機能の達成過程において、大脳基底核と前頭葉連合野が連携する過程の調査を目指し、目的決定と動作選択(例えば、自動車の運転中、赤信号を確認すると、自動車を止めるという目的が発生(目的決定)、それを実現するためにブレーキペダルを踏む(動作選択))の認知行動課題を開発したという。

具体的には、サルの前にモニターを置き、最初に、色のついた図形(黄色い四角や、青いプラスなど)を指示として提示し、その次に左右に並んだ2つのカードを見せ、1つを選んで押してもらうという動作を行った。ここで、例えば「黄色い四角」なら右のカードを、「青いプラス」であれば左のカードを押すと、ジュースがもらるという仕組みを採用し、これによりカードの左右を決めること(目的決定)と、実際に手を伸ばしてカードを押す動作を選ぶこと(動作選択)に関連する神経活動を調査した。

認知行動課題のイメージ

実際の課題実施中のサルの前頭葉連合野と大脳基底核の神経活動を記録し、数千個の神経活動の特徴に対し統計解析を行ったところ、大脳基底核と前頭葉連合野の双方が目的決定と動作選択に関与することが判明したが、「大脳基底核は目的決定や動作選択を行う節目において選択的に情報処理に参加する」という点、ならびに「前頭葉連合野は、目的決定や動作選択に加えて、決定された目的や選択された動作の保持に関与する」という点において、その関与の仕方が本質的に異なることが見出されたという。

今回の研究のまとめ。縦棒は神経活動を表している

高次脳機能を達成するにあたって、「決定や選択」と「結果の保持」という2つの要素が重要となるが、今回の役割分担の発見は、大脳基底核と前頭葉連合野が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の保持」の両者が達成されること、特に、大脳基底核-前頭葉連合野の連合系ループ回路が「決定や選択」の過程に重要であることが示されたものであると研究グループでは説明している。

なお、研究グループでは今回の結果を受けて、さらに脳の研究を進めることで、ヒトで高度に発達した高次脳機能の神経基盤を前頭葉連合野だけでなく大脳基底核による情報処理も含めたかたちで、より深く理解できるようになるとするほか、今回の新知見が大脳基底核の疾患による高次脳機能障害の病態を解明するための重要な手がかりとなり、特に、誘発された高次脳機能障害が、情報処理の節目における障害として捉えられる可能性を示唆するものになるとしている。