太平洋の長距離を時速70キロメートル以上のスピードで泳ぎ回るクロマグロが、青っぽい海中にいる魚などの餌を見つけやすいように、青色の視覚を特別に進化させてきたことが、クロマグロのゲノム(全遺伝情報)を解析した水産総合研究センターや東京大学、国立遺伝学研究所などの共同研究で分かった。

研究チームは、クロマグロのゲノム(約8億塩基対)の9割以上にあたる約7億4,000万塩基対の配列を解明し、2万6,433個の遺伝子を特定した。そのうち網膜で赤色・青色・緑色の可視光と紫外光、および光の明暗のそれぞれの感知に関わる遺伝子について調べ、他の魚類と比較した。

その結果、光の明暗に関わる遺伝子が作るタンパク質では、より短波長側(青色寄り)の光を吸収できるようにアミノ酸の配列が変化していた。また緑色の知覚に関する遺伝子は、1億年ほど前に2つから5つに増えたと考えられ、そのうち4つの遺伝子のタンパク質で青色寄りの光を吸収するようにアミノ酸の置換が起きていた。これらにより、クロマグロは微妙な青-緑色の違いが認識できるようになったとみられる。

さらに“緑色遺伝子”と“青色遺伝子”では数千年前に一部の変換が起きた形跡があり、これに伴いタンパク質のアミノ酸配列が急速に変化したとみられる。こうした進化が起きた時期は、マグロと同じサバ科の魚類が出現した時期と重なっており、クロマグロとその仲間が青色に富んだ海洋の表層に適応するために起きた「分子レベルでの適応戦略の一つ」とも考えられる。

今回の研究成果は、クロマグロの養殖生産における生けすの壁や網での衝突死の予防や、効率的な餌のやり方などといった飼育の改善、さらには視覚以外の生物学的特性の把握や育種技術への活用なども期待されるという。

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