岡山大学は7月17日、被験者の主観的な影響がない状態で、前後・左右の水平面4方向の聴覚刺激が視覚の判断に及ぼす影響の違いについて明らかにしたと発表した。

成果は、岡山大大学院 自然科学研究科の呉景龍 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月17日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載済みだ。

近年、日本の自動車事故による死亡者数は減少傾向にあり、2012年の死亡者数は4411人で、前年度と比較すると201人減少している。この傾向は現在も続いており10年前と比べると半分程度に減少した。事故の発生件数は66万4907件で負傷者数は82万4539人となったが、いずれも8年連続での減少を記録している。

しかし、増加傾向にあって社会問題となっているのが、急速な高齢化に伴う高齢者の交通事故件数だ。2012年の高齢者の死亡者数は2264人にのぼり、全体の51.3%と半数以上を占めた。その原因として、自動車の鳴音の警告による聴覚感受性が高齢者の方が若年者より低いことにあると考えられている。

視聴覚統合とは、視覚・聴覚情報の同時処理による正答率の向上、反応時間の短縮などの効果がある現象のことだ。視聴覚の統合と相互作用について数多くの研究が行われているが、脳内の視聴覚統合のメカニズムは完全には解明されていない。先行研究において視聴覚の促進効果は、情報の空間が一致するなどの構造的要因が重要とするものと、注意などの認知的要因が重要とするものが存在している。しかし、このような視聴覚の相互作用に関する研究の多くは、視覚刺激と聴覚刺激を水平面前方から呈示しているのみだ。

そこで呉教授らは、聴覚刺激の呈示位置を前後・左右の水平面4方向に広げ、「事象関連電位(ERP)」を用いた視聴覚の相互作用を検討し、4方向の水平面全体の視聴覚統合の脳波実験を健常若年者に対して実施した。その結果、左右2方向の視聴覚統合効果が前後2方向の視聴覚統合より低く、前方の視聴覚統合が後方の視聴覚統合より早くなったことを明らかにし、水平面全体4方向からの視聴覚統合間にも有意な差が見られることが発見された。つまり、前方だけでなく後方からの聴覚刺激が視覚判断に大きく影響することがわかったのである。

研究チームは今後、より詳細で最適な聴覚警告の解明のために、単純な純音だけでなく幅広いタイプの聴覚刺激を用いて実験を行う予定とした。また、高齢者の中でも前期高齢者と後期高齢者に分けて比較を行うことで、より高齢者に適した自動車支援装置の設計につなげたいという。さらに実用化のためには、視覚刺激の複雑化や実験環境の改良などによる、より現実に近い実験を行う必要があるとしている。