数あるディズニー/ピクサー作品の中でも、トップレベルの人気を誇る映画『モンスターズ・インク』(2001年)。そんな作品の待望となる続編『モンスターズ・ユニバーシティ』が7月6日より日本で公開される。一足早く公開されたアメリカでは、公開後2週連続で全米興行成績1位を記録するなど、好調な出足をみせている。この作品の特徴はディズニー/ピクサー長編映画史上初、前作の前日譚を描いた物語であること。今回は同作の監督であるダン・スキャンロンに"観客が結末を知っているストーリー"を作る難しさを聞いた。

ダン・スキャンロン
映画『カーズ』(2006年)の脚本に参加したほか、『カーズ』・『トイ・ストーリー3』ではストーリー・アーティストも担当。オリジナルビデオ作品『リトル・マーメイドII/Return to The Sea』(2000年)や『101匹わんちゃんII パッチのはじめての冒険』(2002年)のストーリーボード・アーティストを務める。『メリダとおそろしの森』(2012年)の制作にも参加しており、映画『モンスターズ・ユニバーシティ』で長編アニメーション映画監督デビュー。

――監督は、この作品において「とにかく面白いストーリーを作ることに注力した」と話していましたが、具体的にはどのくらいの期間をかけてストーリーを制作したのでしょうか。また、ピクサー初となる前作の前日譚を描いた苦労を教えて下さい。

ストーリー制作には約4~5年ほどかかっていますね。どの作品のストーリー制作も凄く難しいのですが、続編となるとそのハードルが上がり、前日譚となるとまたそのハードルがさらに上がってしまうんです(笑)。

なぜなら、前日譚の場合、お客さんに結末がバレていて、さらに結末を知っていることが利点になるようなストーリー作りをしなくてはいけません。また、今回の場合、描きたかったのはマイクとサリーが出会って、お互いをどういう風に変えたかということ。"変わる"ということは前作のマイクとサリーと同じではいけないわけです。そういった意味では、新しいキャラクターを作るのと同じような作業を行いつつ、マイクとサリーがお客さんに馴染み深いキャラクターである要素を持たせながら、キャラクター作りを進めなくてはいけなかったんです。

――では、映画『モンスターズ・インク』制作時には今回描いたような設定は一切なかったと。

まったくありませんでしたね。前作を観てもらうと分かるのですが、マイクとサリーの会話に「(大学)4先生のときから俺のイケメンさにジェラシーがあっただろ」というセリフがあるんです。つまり"大学4年生のときからお互いのことを知っている"ということをセリフで言ってしまっているんです。我々もそのセリフがあることは分かっていましたし、そこを指摘する方もいます。ですが、今回のストーリーにはうまくはまらなかったため、ピクサーの判断として、ここで表現したかった"長年の知り合いなんだ"という精神だけを受け継ぐことにしました。こういう調整が必要になるくらい前作の段階では、今回描いた設定が決まってなかったんです。

誰よりも恐ろしい"怖がらせ屋"になることを夢みるマイクの唯一の悩みは、同級生よりも体が小さくて"カワイイ"こと。その夢を叶えるため、ついにあこがれの大学"モンスターズ・ユニバーシティ"に入学する。しかし、そこにはサリーをはじめ、彼よりも大きくて才能あふれる大勢の未来の"怖がらせ屋"が……。ここからマイクのスクール・ライフが始まる

――ストーリー以外の工夫した点を挙げるとしたら、どういったところになるでしょうか。

前作ではライティングが劇場っぽい、お芝居っぽいものだったんですが、今回はリアルな雰囲気を追求したかったので、より自然なイメージのライティングに変更しています。また、マイクやサリーの友達のキャラクターデザインについても同じく劇画かかった部分は控えめにしています。

こういう世界を作る楽しさは、ファンタスティックなキャラクターや世界観があるにも関わらず、描かれていることが人間の日常と変わらない、平凡なことであるという、この組み合わせだと思うんですね。また、キャラクターをみんなにとって共感できるリアルな存在にする秘訣は"誠実さ"だと思うんです。セリフや行動などを通して、そのキャラクターを誠実に描くことができれば観客もリアルな存在として、そのキャラクターに共感してくれるんです。口にすると簡単なのですが、これを実際に表現するのは非常に難しいことなんですよ。

――今回のストーリーにはコメディ要素も随所に入っていますよね。

コメディ要素というのは、キャラクターやそのキャラクターの置かれた状況から自然に出てくるものだと考えています。映画にとって一番大切なのは、主人公を軸とした物語をしっかりと伝えることなのですが、その上に味付けとしてユーモアな要素が出てくるのかなと。つまりジョークをわざと入れ込むのではなく、その状況から自然に生まれてくるものを描くようにしているんです。

ピクサーでは、ストーリーの骨子が成立すると、そこからピクサー内でセッションを行い、より面白くするために何ができるかというアイディア出しを行います。今回の作品でいえば、ストーリー内で期末試験のシーンがあるわけですが、まず期末試験が近づいてくると我々だったらどうするかを話し合うんです。コーヒーを飲みながら頑張って一夜漬けで勉強するよねとか。そして、それをモンスターに置き換えて考えたらどうなるかなと。それだったら、3つの目玉があるモンスターが3つの教科書を一生懸命勉強しているなどの表現になるよねとアイディアを出していくわけです。

――最後に、ハリウッドに挑戦したい日本の若手クリエイターに何かアドバイスをお願いします。

ありきたりのことになってしまうかもしれませんが、自分が本当に興味が持てることをやって下さい。他人が気に入るかどうかに左右されず、自分の好きなものを作ってほしいですね。プロとして映像制作を行うようになると、どうしても依頼主やファンを満足させないといけなくなりますから。若いアーティストは、今なら自分の好きなことを追求できる時期なわけですから、自分がどんなアーティストなのか、どんなことを表現したいのかを知る時間にあててほしいですね。

映画『モンスターズ・ユニバーシティ』は、2013年7月6日より、2D・3D同時公開。

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