慶應義塾大学(慶応大)は7月4日、金魚は音楽を区別する能力を持っているが、音楽のジャンルなどに対する好き嫌いはないことを実験により確認したと発表した。

同成果は同大の渡辺茂名誉教授と篠塚一貴 博士(現 南フロリダ大学研究員)らによるもの。詳細は「Behavioural Processes」オンライン版に掲載された。

今回の実験は2種類の装置を使って行われた。1つ目は水槽に入れた赤いビーズのついた紐が垂れている水中スピーカーで、紐を引けば上から自動的にキンギョ用の餌ペレットが落ちてくる仕組みとなっている。もう1つは、水槽の両端にスピーカーがあり、上からビデオカメラで魚の動きを追跡することができるようになっているもの。カメラはトラッキング・システムにつながっており、魚の位置を調べることができ、魚が両端から30cm以内に近づいた場合、そちら側のスピーカーから自動的に音楽を流す仕組みとなっている。

最初に行った音楽を区別できるのか否かという実験では、バッハの「トッカータとフーガニ短調」(BWV565)とストラヴィンスキーの「春の祭典」のCD音源が用いられた。まず最初に、音楽が流れている時にビーズを引けば餌が得られるが、流れていない時には餌が与えられないという訓練を行った後、音楽の区別の訓練として、30秒ずつ流し、一方の音楽の時にビーズを引けば餌が得られるが、もう一方ではビーズを引いても餌を得られないという訓練を実施。1日に餌の出る音楽と出ない音楽をランダムに各20回聴かせ、全部の反応のうち75%が餌の出る音楽の時になされることが3日続くことで学習したとみなし、その後、これまで聞いていなかったバッハの「前奏曲とフーガ第8 番変ホ単調」(BWV853)、「イースター・カンタータ」(BWV4)とストラヴィンスキーの「火の鳥」を聞かせ、作家の区別ができるかどうかの調査を行った。

実際の実験では、2個体はバッハの曲で餌が与えられ、一方の2個体はストラヴィンスキーの曲で餌が与えられるようにして、金魚に音楽の区別を学習させたが、4匹の金魚の中で最も速いものでも79日、最も遅いもので196日ほど学習に時間がかかったという。また、訓練の時に使わなかったバッハとストラヴィンスキーの曲を流すと区別することができないことも確認されたという。

音楽の区別の実験結果

ビーズを引こうとしている金魚

2つ目の音楽の好みがあるのかないのかという実験は、1つ目の金魚とは別の金魚6匹と両端にスピーカーがある水槽を用いて、1日30分、12日間の期間で実施された。最初と最後の2日間は音楽を流さず、間の8日間、金魚の位置によって異なる音楽を流したほか、2日ごとに音楽が流れるスピーカーの位置を入れ替え、音楽が流されない2日間での各区画の滞在時間と、音楽が流されている時の滞在時間の比率をもとに、音楽に好みがあるのかどうかの判断を行ったという。

用いられた曲は"トッカータとフーガニ短調"と"春の祭典"で、それ以外に雑音として、コンピュータで作成された雑音(白色雑音)と、水中マイクで金魚のいない水槽内でヒトが手を入れて水をかき回したり、エアポンプの音などが入った水中雑音も用いられた。

実験の結果、6匹のうち1匹で統計的に有意にストラヴィンスキーが聞こえる区画への滞在時間が増え、バッハの区画での滞在時間が減少した以外、残りの5匹では統計的に有意な差は見られなかったほか、一方の区画で水中雑音、他方の区画で白色雑音が聞こえる場合では、6匹中3匹で統計的に有意な水中雑音の忌避が見られ、他の2匹にもその傾向が見られたとする。

音楽はヒトが作った人工的な刺激だが、これまでの研究から、サル、ゾウ、ラット、カラス、ハト、ブンチョウ、コイで区別できることが報告されているほか、ブンチョウには音楽の好みがあることが報告されていた。

今回の実験は音楽の区別が哺乳類や鳥類に限られたものではなく、魚類でも可能であることを示すものとなるほか、コイの実験例で古典音楽とブルースの区別が報告されていたが、魚類での音楽の好みの実験はなかったことから、研究グループでは、音楽の好みがないことを魚類まで拡張できることを示す成果を得られたと説明している。また、ヒトと鳴禽が複雑な聴覚コミュニケーションを持つのは、ヒトは言語を学習する必要があること、ならびに鳴禽は歌を学習する必要があり、そこから複雑な聴覚刺激に細かい好みの差が生み出され、それが複雑な聴覚コミュニケーションの学習に有利に働くことにつながっていることが考えられるとコメントしている。