理化学研究所(理研)は、鉄を用いた新しい水素化触媒を開発し、石油化学品製造において重要な水素化反応を1分以内で進行させることに成功したと発表した。

同成果は、理研 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チームの魚住泰広チームリーダー(分子科学研究所錯体触媒研究部門 教授兼務)、同 山田陽一副チームリーダー、ならびにカナダ・マギル大学化学科ムーレス研究室のAudrey Moores教授、分子科学研究所錯体触媒研究部門らによるもの。詳細は英国の王立科学雑誌「GREEN CHEMISTRY」オンライン版に掲載された。

日本の工業用触媒の出荷額のうち石油化学品製造向けは60%超と高い割合を占めている。その種類も酸化触媒、炭素-炭素結合形成反応触媒など数百種類にのぼり、中でも水素化触媒は、石油化学製品の基礎原料、中間体、各種石油化学製品の製造で使われ、使用量、使用範囲が広いが、現在実用化されている水素化触媒には、産出国が限られ、1kg当たり100万円以上するレアメタルのパラジウムが大量に使用されており、地政学リスクや戦略物質としての取り扱いから、価格の急騰が生じている。そのため、触媒材料としてレアメタルを使用せず、安価でかつ効率のよい代替触媒の開発が求められるようになっていた。

今回、研究グループは、パラジウムの代替となる触媒材料として1kg当たり100円以下と安価で豊富にある「鉄」に注目し、効率的のよい鉄触媒を開発するために、ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂にナノ粒子の鉄を付着することを検討した。

ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂は、直径0.09mmの球状の不溶性プラスチックで、水にも有機溶媒にも溶けないが、水や有機溶媒をスポンジのように吸収する性質があることが知られている。研究グループでも、これまでの研究から、同樹脂にナノ粒子のパラジウム、ナノ粒子の白金を付着させた触媒を開発しており、今回、その触媒開発法を鉄のナノ粒子付着に応用することで、180℃の高温条件のもと、ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂に平均粒径5nmのナノ粒子の鉄を付着させた鉄触媒の開発に成功したという。

実際にその鉄触媒の性能評価として、フロー型反応装置に充填させ、石油化学製品の製造に必要となるさまざまなアルケン、アルキンのエタノール溶液と水素を流し入れ、水素化反応をさせたところ、1分以下で水素化反応が進行し、石油化学工業の原料物質として広く利用されるアルカンが効率よく生成され、最高で100%の生成率を達成したことを確認。

さらに同鉄触媒は、従来問題となっていた、酸素や水で触媒活性が低下するという問題が発生しないほか、エタノールやエタノール水混合溶媒など毒性の低いアルコールを反応溶媒として用いることができ、安全性も向上できる可能性が示されたという。

なお、今回の成果から研究グループでは今後、基礎研究を継続して安定性・耐久性を高めた鉄触媒の開発を行っていく方針としており、レアメタル触媒の使用からの脱却を図っていければとしている。

今回の研究で開発された鉄触媒の顕微鏡写真。粒の1つ1つが、鉄粒子を付着させたポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂で、その直径は約90μm

アルケンやアルキンに水素原子を導入し、アルカンが生成する反応のイメージ