患者の皮膚からのiPS細胞(人工多能性幹細胞)で作った網膜の細胞シートを患者の目に移植して病気を治療する臨床研究の実施について、厚生労働省の「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会」(委員長、永井良三・自治医科大学学長)が26日承認した。早ければ来年夏にも、世界で初めてのiPS細胞由来の細胞組織をヒトに移植する手術が行われる見通しとなった。

臨床研究は、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーや公益財団法人・先端医療振興財団 先端医療センター (同市、鍋島陽一センター長)などが計画し、今年2月28日に厚労省に申請していた。7月上旬にも開かれる厚生科学審議会科学技術部会と厚労相の了承を経て、正式に実施が認められる。

臨床研究の対象となるのは「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」と呼ばれる加齢とともに起きる目の疾患で、網膜の中心にある「黄斑」が障害を受けて視野がゆがんだり暗くなったりして、重症の場合は失明に至る。女性よりも男性に多い病気で、日本国内には約70万人の患者がいるとされる。今回は特に、「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮型」の2タイプある加齢黄斑変性のうち、網膜下に「脈絡膜新生血管」という弱くて破れやすい血管ができて、血や水がにじみ出てくる滲出型を対象としている。

実際の治療では、患者自身の上腕部から皮膚線維芽細胞を直径4ミリメートルほど採取してiPS細胞を作る。これをもとに網膜色素上皮細胞を作って培養し、移植用の細胞シート(縦1.3×横3ミリメートルほど)にして、患者の病気で傷んだ黄斑部分の網膜と入れ替える。移植手術は、既存の薬が効かないなどの条件を満たす50歳以上の6人が対象となる見込みで、発生・再生科学総合研究センターに隣接する「先端医療センター病院」で行う。

臨床研究は、新しい治療法としての安全性や可能性の評価を主目的に、シート移植に起因する免疫拒絶反応や腫瘍化の程度を確認し、また移植手術によって生じる有害事象などを調べる。これまで高橋プロジェクトリーダーらは、免疫不全マウスを用いた造腫瘍性試験を3回行い、さらにラットやカニクイザルの網膜下に網膜色素上皮細胞シートを移植するなどして、安全性を確認してきたという。