産業技術総合研究所(産総研)、大阪大学(阪大)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の3者は6月12日、元素中で最高の「超伝導転移温度(Tc)」を持つ超高圧下のカルシウム(Ca)の結晶構造を明らかにしたと共同で発表した。

成果は、産総研 計測フロンティア研究部門 精密結晶構造解析グループの藤久裕司主任研究員、阪大 極限量子科学研究センターの清水克哉教授、JASRI 利用研究促進部門 構造物性Iグループの大石泰生主幹研究員らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月7日付けで米国科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

53種類の超伝導性を示す元素の内、阪大ではこれまでCaについて高圧下での超伝導測定と「粉末X線回折実験」(粉末試料にX線を照射することでさまざまな方向に現れる回折X線の強度と回折方向の角度を測定することで、試料を破壊せずに内部構造を決定できる手法)を行い、圧力変化に伴い逐次相転移して、200GPa以上の超高圧力でVII相が出現し、それが元素中で最高のTcである29Kを示すことを発見していた(画像1)。

画像1が、Caの遂次相転移の様子を表したものだ。III相から超伝導体となる。TcはV相で1度わずかに低くなるものの再度上昇し、VII相では元素中最高の29Kに達する。VII相の結晶構造内の「?」は理論予測のみで、未確定であることを示すものだ。なお、ほかのほとんどの元素のTcは数K程度であるのに対し、CaのTcが極めて高い理由は未だ明らかになっていない。

画像1。Caの遂次相転移の様子

また、VII相の結晶構造はカリウム、ストロンチウム、バリウムなどに見られる「ホスト・ゲスト構造」(内部に空洞を持った構造であるホスト骨格の中に、空洞よりも小さい原子(ゲスト原子)や分子(ゲスト分子)が入り込むことでできた構造)と同じであろうと理論予想されていたが、実験的にはこれが正しいかどうかは確認されていなかった。そこで今回、理研が所有しJASRIが運用する大型放射光施設「SPring-8」において測定したCa VII相の結晶構造解析を3機関共同で実施したというわけだ。

粉末X線回折実験は、「ダイヤモンドアンビルセル」を用いて高圧下で実施された。ダイヤモンドアンビルセルの試料サイズは直径40μm、厚さ15μmと極めて小さく、回折強度が弱い。そのため、X線源としてSPring-8のビームライン「BL10XU」の高輝度放射光が利用され、また検出器には「イメージングプレート」(X線などの放射線の観測に用いるフィルム状の検出素子)が用いられる形で粉末X線回折パターンの測定が実施された。そしてCaは210GPaからVII相への相転移が始まることから、相転移が完了する241GPaでの粉末X線回折パターンを用いて結晶構造解析が行われたのである。

カリウムなどの既知のホスト・ゲスト構造(画像2)や理論予測されている構造モデルを使って「リートベルト解析」が行われたが、実測の回折パターンには十分に一致しなかった。なおリートベルト解析とは、結晶構造モデルから計算される回折強度にピーク幅を与え粉末回折パターンを生成し、それが実験で得られた粉末回折パターンにできるだけ一致するように結晶構造モデルを最適化する解析方法のことである。

そこで、既知のホスト・ゲスト構造の格子を4倍にしたモデルを作成し、ゲスト原子の位置を最適化するリートベルト解析が行われた。すると、実測の回折パターンとよく一致する回折パターンを示す構造モデルが得られたのである(画像3)。そしてCaVII相の結晶構造は、既知のホスト・ゲスト構造や理論予測された構造モデルとは異なった新しいものであることがわかったというわけだ。

画像2(左):カリウムなどで出現する既知のホスト・ゲスト構造。画像3(右):今回解析されたCaVII相の241GPaでの結晶構造。上下の図は異なる2方向から見た様子を示す。どの球もCa原子であるが、緑色はホスト構造、青色と茶色はゲスト構造を構成する原子を表す

なお試料サイズが極めて小さいため、高輝度放射光を用いても回折強度は微弱だったという。また、今回の構造モデルは結晶格子中に128個の原子を含んでおり、リートベルト解析だけでは高精度に原子の位置を決定することは難しいことも判明。そこで、リートベルト解析で得られた原子の位置を初期値とした量子化学計算の1種である「密度汎関数理論(Density Functional Theory:DFT)計算」(現在、固体物性の分野で広く使われている多電子系(原子、分子、結晶)の電子状態を調べる計算手法)による構造最適化が行われた。すると、構造最適化前後での原子の位置はよく一致したのである。

また、得られた構造についての内部圧力計算も行われ、実験に用いた圧力をよく再現することに成功した形だ。このようにリートベルト解析とDFT計算の双方の利点を生かして、構造を解析することに成功したのである。

さらに画像2の下で示すように、ホスト・ゲスト構造では茶色で示したゲスト原子は縦方向にチェーン状につながっている。画像3の下のCaVII相の構造では、チェーン方向に異なる高さを持つ2種類のゲスト分子が存在する形だ。これらをA(茶色)、B(青色)と区別してある。A同士、B同士を結ぶと実線正方形で示したユニークなパターンが表れる(画像3・上)。

このようなチェーンの規則正しい配列はホスト・ゲスト原子間距離がホスト・ホスト原子間距離と同程度にまで近づいたことにより出現したと考えられるという。得られた構造から241GPaでの1原子あたりの体積を求めると、常圧時の体積の約5分の1であることが確認された。つまり、密度が約5倍になっていたということである。

この研究成果から得られた結晶構造を基にTcの計算をすることで、超伝導と結晶構造の関連性解明に重要な情報を与えることが可能となるという。さらに、従来よりも高いTcを持つ物質、つまり新たな高温超伝導体の設計に成功すれば、高性能マグネット用線材や、送電ロスの極めて少ない送電ケーブルへの応用が期待されるとした。

研究チームは今回、200GPaを超える高圧力下での複雑な結晶構造を解明したことにより、今後はほかの元素についても新しい相の探索と結晶構造の解明を進めてゆく予定としている。また、結晶構造解析技術は高圧力に関連した分野のみでなく、合成されたばかりの新物質でも微量な粉末のまま適用が可能であるので、超伝導体、リチウムイオン電池材料、水素吸蔵材料などの構造解析にも役立ててゆく予定とした。