「NHK技研公開 2013」が、5月30日~6月2日にNHK放送技術研究所で開催された。注目は2016年に実用化試験放送に向けて検討が進められているスーパーハイビジョン(8K)。ソフトとハードの両面で開発が進められている同技術を中心に36のブース展示などが行われた。

NHK 技研公開 2013の正面入口

スーパーハイビジョンは8K(7680×4320画素)の解像度に対応することで、ゆったりと広がる大画面の迫力ある映像と、グラビア写真と同じくらいのきめの細かさを目指した次世代TV放送規格である。音響においても、22.2chサラウンドとこれまでにない臨場感が体験できる。当初、2020年に実証実験を開始するロードマップを掲げていたが、2013年3月に2016年へと大幅に前倒しされた。この影響から、今回の技研公開は積極的な展示が目立った。

120Hzに対応した8Kイメージセンサ

イメージセンサでは、フレーム周波数120Hzに対応した8Kイメージセンサが紹介された。有効画素数約3300万、フレーム周波数120Hz、階調12ビットと、超高精細を実現。フレーム周波数を高めると、消費電力が増加するが、A/Dコンバータ(ADC)を新たに開発したことで、従来比約60%減となる2.5Wまで抑えた。展示されたスーパーハイビジョンカメラは、同イメージセンサを3枚使用している。出力データレートは144Gbps。映像はカメラで撮影された後、カメラ信号処理装置(CCU)を介してディスプレイに表示される。展示ブースでは、同イメージセンサで撮影した映像を4K対応のTFT-LCDを4枚用いて表示した。

120Hz対応の8Kイメージセンサを3枚搭載したスーパーハイビジョンカメラ

4K対応TFT-LCDを4面並べて8K映像を表示

また、技研公開に先駆けてプレス発表された小型8Kカメラヘッドやスーパーハイビジョン用小型記録装置など、機動性の高い番組制作を目的にした機器も発表された。カメラヘッドは幅12.5cm×12.5cm×15cmサイズで、重量が2kgとコンパクトなものとなっている。有効画素数約3300万の単板イメージセンサにカラーフィルタが組み合わせられている。小型記録装置は、スーパーハイビジョンカメラ信号を圧縮して、固体メモリに並列記録する。記憶媒体には、高速で書き込みを行うため、フラッシュメモリを採用した。8Kに対応させるため、並列書き込みアルゴリズムとドライバ技術が新たに開発された。フラッシュメモリは瞬間的な書き込みは速いが、動画のように継続しているデータを記憶する際に止まってしまうことがある。そこで、並列処理により、書き込みの待ち時間を減らし、従来比2倍以上の高速記録を実現したという。

小型スーパーハイビジョンカメラヘッド(前方)と撮影された映像(後方)

スーパーハイビジョンカメラ(左)と小型記録装置(右)

小型記録装置の内部。個体メモリ(左)、出入力インタフェース(右上)と画像処理部(右下)

スーパーハイビジョン放送に向けて、HEVCリアルタイムエンコーダも紹介された。HEVCは2013年に国際標準化される最新の映像符号化方式で、MPEG-4 AVC/H.264の約2倍の圧縮性能を実現しており、スーパーハイビジョン映像の画素数およびフレーム周波数に対応している。この他、実用化試験放送開始を目指した12GHz帯衛星放送によるスーパーハイビジョン伝送技術や地上放送に向けた大容量伝送技術などが紹介された。

HEVCリアルタイムエンコーダ

12GHz帯衛星放送の実験システム

次世代技術では、2次元・3次元情報の触覚・力覚提示技術が注目を浴びた。触れただけで図の重要な場所がわかる触覚ディスプレーや、仮想物体に触れる力覚提示装置が展示された。力覚提示装置は、ディスプレイに映しだされたものをまるで触っているのような感触を指先に与えることができる。

力覚提示装置。ディスプレイに映しだされた物体をセンサを通して触れることができる。ポインタの位置が触れている箇所

力覚提示装置のセンサに指を入れると、ポインタの位置の凹凸などの感触が伝わってくる。物体の角まで指を動かすと、指が横に傾く

次世代ディスプレイ技術「フレキシブル有機EL」

次世代ディスプレイ技術として、同所ではフレキシブル有機ELの研究を進めている。今回は8型フルカラー有機ELと、新しい陰極材料によりフィルム基板上でも長期間安定に発光する「iOLED」が展示された。フルカラー品は、解像度が640×480画素、輝度が200cd/m2。マスク蒸着方式によってRGB3色に塗り分けられており、ボトムエミッション構造を採用する。発光材料はRGがリン光材料、Bが蛍光材料、基板はPEN基板が用いられている。「iOLED」はR材料のみが開発された段階で、GとB材料の開発に今後取り組んでいくという。

8型フレキシブル有機ELディスプレイ

新しい陰極材料を用いてフィルム基板上でも長期間安定に発光する「iOLED」

ハイブリッドキャストも大きくアピールされた。放送とネットの連携サービスで、HTML5ベースでより魅力的なアプリやコンテンツを提供していくというもの。サービスには、個々の番組に依存せずに常時提供する独立型と、番組内容や進行に合わせて提供する連動型がある。2013年中にNHKが試験的に提供を行う予定。これに合わせ、ハイブリッドキャスト対応TVも発売される。すでに、東芝が4K対応のLCD-TV「REGZA Z8X」シリーズで対応すると発表している。また、サードパーティ向け開発ツールといった周辺技術の準備も進められているという。

NHKのハイブリッドキャスト。写真はTV番組を視聴中に最新のニュースが確認できる独立型サービス

KDDIの「Smart TV Box」にハイブリッドキャストを試作搭載したもの

民放の連動型サービス。タブレットに放送で登場した飲料について表示。情報はSNSなどで共有できる仕組みになっている