手塚漫画にしばしば登場するヨーロッパの古城風の外観をした「宝塚市立手塚治虫記念館」

日本が世界に誇る漫画やアニメ文化。世界にも類を見ない独自の世界が発展したのは、日本にひとりの天才漫画家がいたからだと言われている。それが、今に至るストーリーマンガの基礎を築いた手塚治虫氏だ。

手塚氏は大阪府豊中市に生まれ、5歳から約20年間、兵庫県宝塚市で育った。幼少期から青年期までの多感な時期を過ごしただけに、生涯、宝塚を愛したという。そんな宝塚に平成6年(1994)、手塚漫画の世界観を伝える「宝塚市立手塚治虫記念館」が誕生した。今回、その世界を感じてみることにした。

常設展示や映像などで手塚ワールドを紹介

『リボンの騎士』の王宮風エントランスホールを経て広がる1階では、手塚マンガの根底に流れる“自然への愛と生命の尊さ”というテーマに沿って、「宝塚と手塚治虫」という常設展が披露されている。

エントランスに入ると色々な手塚マンガのキャラクターが出迎えてくれる

手塚氏が暮らしていた頃の宝塚市は、まだ豊かな自然が残っており、宝塚歌劇や映画を上演する劇場があった。そうした環境の中、手塚氏は自宅裏にあった雑木林で昆虫採集に勤(いそ)しみ、また、宝塚歌劇や映画を観て育ったという。展示を観ていると、この時代の体験が、後の手塚作品に大きな影響を与えていったことが伝わってくる。

また、1階には130インチハイビジョンを備えた映像ホールもあり、20分前後のオリジナル・アニメを月替わりで上映している。取材時に上映されていたのは「手塚治虫伝」。手塚氏の半生と漫画作品について紹介した内容で、観賞後には改めて手塚漫画を読み返したくなった。

上映時間が短めで、小さい子供でも飽きずに最後まで観ることができるのもミソかもしれない。幼い手塚ファンを生むには最適の長さである。

さらに、2階には4カ月ほどで展示が代わる企画展示室(現在は「日本SF作家クラブと手塚治虫」を6月24日まで開催中)と、情報・アニメ検索機、ライブラリーコーナーなどが設けられている。こちらはややマニア向けという印象だ。

映像ホールの天井には手塚作品のさまざまなキャラクターが描かれている

カラフルなインテリアが目を引く情報・アニメ検索機とライブラリーコーナー

地下ではアニメ制作の体験も

手塚氏がその生涯で執筆した漫画は、約700タイトル・15万枚に及ぶ。また、60タイトル(作品別数)以上のアニメーション作品も手がけているが、こちらの記念館ではそれら全てを何らかの形で紹介しているので、本気になって観ようと思うと、それこそ何日かかるか分からないほどの情報が溢(あふ)れている。

さらに、こうした資料の展示だけでなく、地下1階には誰でも気軽にアニメーションの制作が体験できるアニメ工房も設けられている。手塚作品に出てくるロボット工場をイメージしたという工房では、自分で描いた絵をモニターで動かしたり、手塚マンガのキャラクターに色づけしたりできる。そこで早速体験してみることにした!

ロボット工場をイメージしたという地下1階のアニメ工房

自分が描いた絵が動く!

アニメ工房では、自分の席の前にあるモニターを見ながら、マウスを使って「メタモルフォーゼ」や「色づけ」、「編集」などのアイコンからやりたいことを選ぶ。その中にある「アニメーション制作」を申し込んだところ、動画用の紙とそれを固定する金具、鉛筆、消しゴムが渡された。

アニメーションは2コマと5コマがあるが、基本はどちらも同じで、ライトボックスになっている机の上で、渡された紙の1枚目に絵を描き、その上に2枚目の紙を置いて、ライトボックスの光で透かしながら動かしたい部分以外をなぞる。その紙を係の人に渡すと、パソコンで読み込んでモニターに映し出してくれるのだ。

「私、絵心がなくって……」という人も心配無用。線画程度でも十分で、例えば、両手を広げてジャンプする線画を描くだけでアニメが手軽に作れるので、特に子供には大人気だという。背景も描けるようになっており、5コマにするとまるで本物のアニメのように動くので楽しくなる。絵に自信がなくても、臆せずチャレンジしていただきたい。

ライトテーブルの机には正面にモニターがある

手前の白い紙に書いた絵が正面のモニターで動く!

たっぷり遊んだあとは、お土産もお忘れなく! ミュージアムショップでは、高さ20cm強のアトムが座っているフィギュア(12,600円、4/2現在在庫1点)などのレアものから、アトムやひょうたんつぎなどのキーホルダー(315円)まで各種そろっているので、選ぶ時間もたっぷり確保しておこう。