国立科学博物館(科博)は4月25日、2013年7月6日から10月6日までの期間で開催する予定の特別展「深海 -挑戦の歩みと驚異の生きものたち- The DEEP」の開催趣旨やその概要などを発表した。

深海はまだまだ謎に包まれている

同展の主催は国立科学博物館のほか、JAMSTEC、読売新聞社、NHK、NHKプロモーションとなっており、文部科学省が後援している展示会。監修者にはNHKと協力して2012年7月にダイオウイカの撮影に成功し、その模様が2013年1月のNHKスペシャルとして放送された国立科学博物館の窪寺恒巳 標本資料センター長に加え、海洋研究開発機構(JAMSTEC)から藤倉克則 上席研究員が参加している。

今回の特別展の監修者である国立科学博物館の窪寺恒巳 標本資料センター長(右)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の藤倉克則 上席研究員(左)

深海というと、何もおらず"死の世界"というイメージを持つ人も多いと思うが、実際はそうではない。確かに深海は、「暗黒」、「高圧」、「低温」という3つの過酷な環境が混ざり合った世界ではあるが、そうした過酷な環境に敢えて対応し、生活をしている生物たちが意外に多い。科博でも、この20年の間、日本の周辺海域に棲む生物の調査を行ってきており、膨大な量の標本を保有しているという。また、深海には生物だけでなく、レアアースやメタンハイドレート、海底油田といった資源などが存在することも分かってきており、注目を集めるようになってきている。

同展の構成は、入場した直後に深海の雰囲気を感じてもらう「プロローグ」から始まり、暗黒・高圧・低温という3重の過酷な環境とはどういったものかや、深海の水の起源は実は南極と北極にあるという「深海の大循環」やプレートテクニクスの仕組みなどを説明する「深海の世界」、日本が誇る有人潜水調査船「しんかい6500」の1/1スケール(全長9.7m×幅2.8m×高さ4.1m)の模型を中心に、実際に深海において活躍している各種探査機などが展示され、人類がどうやって深海に挑戦してきたのかを知ることができる「深海に挑む」というのが前半の構成。ちなみに、世界初の有人潜水艇を作ったのは日本で1929年の「西村式豆潜水艇1号」だとのことで、こうした話なども紹介されるという。

特別展「深海」の展示レイアウト

後半は、科博が20年間にわたって調査・採集を行ってきた深海生物およそ300点を「海綿」、「軟体」、「棘皮」、「甲殻類」など分類ごとに紹介する「深海生物図鑑」、そうした深海生物が普段、どういった生活をしているのか、なぜ過酷な環境下で生きられるのかを説明する「深海に生きる」、そして光の届かない極限環境に生物たちがいかにしてその身体を適応させていったのかを説明する「深海への適応」、最後にNHKスペシャルでも放送されたダイオウイカの映像など、科博やJAMSTECなどが持つ深海映像を動画で見られる「深海シアター」という構成となっている。

20年にわたって科学博物館が採集してきた約300点の深海生物の標本も展示される

また、第2会場には「深海の開発と未来」と題した展示が用意されており、そちらはレアメタルやメタンハイドレート、意外に知られていない食卓に並ぶ深海生物などの紹介が行われる予定だという。

監修者の1人である窪寺氏は「深海は今もって新しい発見があるし、そこには神秘が隠されている」とするほか、今回の展示会の目玉は「なんと言ってもダイオウイカ。深海も意外に単純な世界で、さまざまな生物が生息しているため、捕食されてしまう危険性もある。対抗策としては逃げる、隠れるといったことが考えられるが、自分が捕食者よりも大きくなってしまえば食べられることはないと考え、進化したのがダイオウイカだと考えられる」とし、そうした生物の不思議を感じられる展示会にしたいと意気込みを語った。

また、もう一方の藤倉氏は、「深海調査におけるもっとも大きな発見の1つは、熱水鉱床の周辺に多くの生物が生息しているという事実。普通の生物は光合成を元にした環境下で生活しているが、彼らはメタンなどをエネルギーにして生きるまったく別の生態系。また、海底を掘り下げた地下数百mの場所にも、分裂速度が数百年単位という古細菌(アーキア)が確認されるなど、非常に興味深い世界が広がっている」とし、ぜひ、その世界を体感してもらいたいとした。

なお、同展示会に関連し、NHKでは2013年7月にNHKスペシャル「シリーズ 深海の巨大生物」と題して全2回(第1回「伝説のイカを育むオアシス」、第2回「謎の海底サメ王国」)の予定で再び深海の話題を取り上げる予定のほか、5月2日には1月に放送したNHKスペシャル「世界初撮影! 深海の超巨大イカ」の再放送も予定しているという(同番組は6月21日にDVD/Blu-Rayとしても発売される予定)。

会見場に垂らされたダイオウイカの横断幕。右側の座っている人のサイズと比べると、その大きさが分かってもらえるだろうか

また、入場料は一般・大学生が1500円 、小・中・高校生が600円だが、5月1日より前売りチケットが1300円(小・中・高校生は500円)で販売されるほか、3000枚限定で海洋堂が製作した「ダイオウイカvsマッコウクジラ」のストラップフィギュアが付いてくる前売りチケットも1500円で販売される。

左は前売りの限定チケットについてくるダイオウイカvsマッコウクジラのストラップフィギュア。右は展示会にて売られる予定のダイオウイカのフィギュア