東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は4月23日、地球から約90億光年の遠方に見つかった超新星「PS1-10afx」が、明るさが一定のため「宇宙の標準光源」として知られる「Ia型超新星」(画像1)でありながら、超新星と地球との間にある大質量の天体によって空間が曲げられる「重力レンズ効果」によって集光され、通常の約30倍も明るく見えたことを発見したと発表した。

成果は、カブリIPMUのロバート・クインビー特任研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月18日付けで米扱く天体物理学誌「The Astrophysical Journal Letters」オンライン版に掲載された。

画像1。宇宙の標準光源として知られる、Ia型超新星の想像図。(c) カブリIPMU

PS1-10afxは、4台の望遠鏡を使って移動天体や突発天体を検出することを主目的とした米国の「全天サーベイ観測パンスターズ1(Panoramic Survey Telescope & Rapid Response System1:Pan-STARRS1)」によって、2010年に発見された超新星だ。PS1-10afxの赤方偏移は1.3883と計測されたことから、地球から約90億光年の遠方にあることがわかった。パンスターズ1で見つかっているほかの超新星の中では、特に遠方である。

しかし、それだけの遠方にもかかわらず非常に明るかったことから、超新星爆発の中でも希少な存在の、太陽の1000億倍の明るさを持つ「超高輝度超新星(superluminous supernovae:SLSNe)」の1種として当初は結論づけられた。

ところが、PS1-10afxを超高輝度超新星とするには条件が合わない要素が複数あったのである。通常、超高輝度超新星は青色をしており、明るさの変化は比較的遅いというのが特徴だ。それに対してPS1-10afxは赤色の成分が強く、明るさの変化も通常の超新星と同様に速いものだった。そのため、これほどまでに明るく、赤色で、光度変化の速い超新星の物理モデルが存在せず、イレギュラーな存在となってしまったのである。

そこで超高輝度超新星の研究の中心的存在であり、その発見の際にも重要な役目を果たしたクインビー特任研究員が、PS1-10afxのデータの詳細な解析を行ったところ、超高輝度超新星ではなく、データの特徴が大変見慣れたものであることに気づいたという。Ia型超新星の波長分布と一致したのだ。

Ia型超新星は、宇宙のどこで起こったものでも明るさとその時間変化が非常に似通っているため、その明るさから距離が導き出せる標準光源として活用されている。Ia型超新星の標準光源としての価値は、この性質が2011年にノーベル物理学賞に輝いた宇宙の加速膨張の発見にも重要なファクターとなったことから、おわかりいただけることだろう(ただし、ここ最近になって、こちらのように、Ia型超新星にはバラつきがあり、もしかしたら標準光源として適さないかも知れない可能性もあるという研究成果も出ている)。

画像2は、PS1-10afxと典型的なIa型超新星である「SN2011fe」との光度変化の比較だ。青い点がPS1-10afxの、赤い四角がSN2011feの観測データで、SN2011feはPS1-10afxとの比較のため、時間軸を調整してある。破線はSN2011feのデータをフィットしたものと、それを30倍したもの。PS1-10afxのデータと曲線がよく一致することは、PS1-10afxの光度の時間変化が通常のIa型超新星と同じであることを示す。しかし、前述したように典型的なIa型超新星の30倍の明るさである。

画像2。PS1-10afxと典型的なIa型超新星であるSN2011feとの光度変化の比較。(c) カブリIPMU

クインビー特任研究員らはここで、この矛盾を解決すべく、重力レンズの数学的理論を専門とするマーカス・ワーナー特任研究員をはじめとするカブリIPMUの宇宙物理学者と数学者の力を借りることにした。そして、超新星と地球との間にある天体の重力レンズ効果によって、超新星の明るさが増幅されて見えた、という結論に達したのである。

重力レンズとはアインシュタインが予言した宇宙規模の物理現象で、銀河などの大質量の天体は空間を大きく曲げるため、本来なら地球に届くはずのない光がカーブして届くため、凸レンズのような役割を果たすというものだ(画像3)。

画像3。PS1-10afxの増光メカニズムの模式図。虫眼鏡で太陽光を集めるようなイメージ (c) カブリIPMU

もちろん、PS1-10afxと地球とその間にある重力レンズ天体の3者が一直線上に重なっているのかそれともズレているのか、重力レンズ天体が地球からどれだけの距離にあるか、どれだけ重力が強い天体なのか、重力の働き方が球状なのか歪んでいるのか、などによって、重力レンズ像は大きく変化し、これまで多数の重力レンズ増が観測されているが、きれいな像になっていないものも多い(その多くが、手前の銀河などがより遠方に位置する銀河を分裂させたり、歪ませたりして重力レンズ効果を見せている)。

重力レンズ現象では、効果を受けた天体(今回ならPS1-10afx)の色や波長分布、光度変化の速さは影響を受けない。つまり、天体の明るさだけが大きくなって観測される。よって、条件さえが整えば、きれいに光を集めて増幅することも可能性があるというわけだ。そうすると、まるで実際に何倍も何10倍も明るく輝いたかに見えるわけで、それが今回起きたというわけだ。ちなみに、Ia型超新星に対して重力レンズ効果が働いているのをとらえたのは、今回が世界で初めてとなる。

また、今回の発表論文の共著者の1人である、カブリIPMUの大栗真宗特任助教は、数年前に自らのチームの論文で、パンスターズ1では強い重力レンズ効果を受けたIa型超新星を発見できると予測。そしてその発見により、宇宙論のパラメータに強い制限を加えることができるとしていたが、今回、予測通りのIa型超新星が発見されたというわけだ。

また今回、Ia型超新星の標準光源の性質を利用することで、ほかの天体の重力レンズ効果では測定することの難しいレンズの増光率を直接測定することができ、重力理論による計算を検証することにもつながったという。カブリIPMUが推進している、すばる望遠鏡に設置した超広視野イメージング装置「HSC(Hyper Suprime-Cam)」などの観測では、さらに多くの重力レンズ効果を受けたIa型超新星やほかの天体が発見される可能性があるとする。

なお、今回の発見に対して研究チームは、今後、さまざまな天体の重力レンズ効果を利用して宇宙の暗黒物質、暗黒エネルギーや重力理論の解明をさらに進めるための重要な足がかりになることが期待されるとコメントしている。