奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は4月10日、植物が器官の大きさを一定サイズに保つために、細胞増殖を適度に抑える仕組みを持つことを明らかにしたと発表した。

成果は、NAIST バイオサイエンス研究科 植物成長制御研究室の梅田正明 教授らによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間4月10日付けでオンライン科学ジャーナル「PLoS Biology」に掲載された。

植物の体表面はワックス(油脂状の物質)で覆われており、病原菌の感染や水分の蒸発を防いでいる。中でも炭素数が20よりも大きい脂肪酸の「極長鎖脂肪酸」はワックス成分として重要であり、「クチクラワックス」の成分となるほか、種子の「トリアシルグリセロール」や「脂質(セラミド)」の成分にもなる。その合成を阻害するとワックスの生成ができなくなるため、植物の成長は阻害されてしまう。実際、極長鎖脂肪酸合成の阻害剤は除草剤として利用され、市販されている。

ところが、梅田教授らはモデル植物のシロイヌナズナを用いて極長鎖脂肪酸の合成をわずかに阻害したところ、それだけでは成長阻害がまったく起こらず、むしろ葉などの器官サイズが大きくなることを見出した(画像1)。

画像1。極長鎖脂肪酸をわずかに阻害した程度だと、葉などの器官サイズが大きくなることが見出された

そこで、この現象の詳細な解析を行ったところ、極長鎖脂肪酸の合成阻害により、植物ホルモンの1種であり、植物の地上部器官では細胞分裂を促進する働きを持つ「サイトカイニン」の合成遺伝子が活発に働き始め、同ホルモンの量が増加することにより細胞増殖が活性化していることが明らかになったのである。

つまり通常、極長鎖脂肪酸はサイトカイニン合成を抑えることにより細胞増殖を適度に抑制し、器官サイズが必要以上に大きくなることを防ぐ役割を持つことが示されたというわけだ。これまで細胞壁などによる物理的な力が器官の成長を制御することは知られていたが、異なる細胞間のシグナルのやりとりにより細胞増殖が抑制されるメカニズムが発見されたのは初めてとなる。今回の発見は、植物の巧妙な成長戦略を裏付けた形だ。

なお、極長鎖脂肪酸は表皮(組織の最外層)のみで合成されるのに対し、サイトカイニン合成遺伝子が、水分や養分を運ぶ「維管束」のみで発現している点に対し、梅田教授らは「興味深いこと」とする。つまり、表皮で合成される極長鎖脂肪酸が別の組織である維管束でのサイトカイニン合成を抑えていることになり、表皮から維管束に向けて何らかのシグナルが流れていると推測されるというわけだ(画像2)。

画像2。サイトカイニンは維管束のみで発現している

いずれにしても今回、器官の成長が表皮(表面)と維管束(中心軸)の相互作用でコントロールされるという、器官成長の仕組みとして新しいメカニズムが明らかになったことで、化合物を用いた植物バイオマス増産の新たな技術開発の道筋が見えてきたと、梅田教授らは語っており、バイオ燃料やバイオプラスチックの原料となる植物素材の増産に利用すれば、光合成による二酸化炭素の効率的な資源化にも貢献できると考えられるという。また、これまで動植物を通じてほとんど明らかにされていない、器官の大きさを決める機構の1つが明らかになったことから、植物の形態を自在に操る技術開発にもつながると考えられるとも述べている。