京都大学(京大)は4月4日、従来なかった面心立方格子(fcc)構造を有する金属ルテニウム(Ru)触媒の開発に成功したことを発表した。

同成果は同大大学院理学研究科の北川宏 教授らによるもので、詳細は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版で公開される予定だという。

近年の新素材開発は、周期表上に存在する元素の組み合わせにより実現されているが、金属の結晶構造はその化学的・物理的性質と密接に関係していることから、これまでに金属組織学的に多くの金属や合金の状態図が明らかにされてきた。例えば良く知られる鉄は常温付近下では体心立方格子(bcc)構造を持ち、磁石にくっつくが、温度が1000℃以上になるとfcc構造へと構造が変化し、磁石に応答しなくなるということが知られている。そうした金属の1つである金属Ruは、これまで六方最密格子(hcp)構造しか持たない金属として知られていた。

今回、研究グループは、溶液中で金属原料を還元し、ナノ粒子を作製するボトムアップ法を用いることで、fcc構造を持つRuの作製に成功したという。具体的には、 粒径を制御するため保護剤としてポリ(N-ビニル-2-ピロリドン)(PVP)を用い、ルテニウムアセチルアセトナト錯体をトリエチレングリコールで還元することで、fcc構造を有するRuナノ粒子を作製したとする。

面心立方格子(fcc)構造を有する新規Ruナノ粒子と一酸化炭素の酸化反応

また調査の結果、PVPおよびRu原料の濃度を調整することで、得られる粒子のサイズを精密に制御することが可能であることが判明したほか、Ru原料と還元剤の種類を変えることで、fcc構造とhcp構造の作り分けも可能であることも判明したとする。

透過型電子顕微鏡像(左図)と粉末X線回折パターン(右図)。AからDはhcp-Ruナノ粒子、EからHはfcc-Ruナノ粒子の結果を示している。透過型電子顕微鏡像から2nmから5nm程度の粒径を持つナノ粒子が得られていることがわかる。一方、粉末X線回折パターンからはfcc構造とhcp構造の作り分けが可能であることが示されている

さらに、一酸化炭素の酸化反応に対する触媒評価を行ったところ、3nmから5nmの粒径を持つ新規fcc-Ru粒子は従来のhcp-Ru粒子に比べて、一酸化炭素の転化率が50%に達する温度(T50)が低いことから、よりマイルドな条件下で高い活性を示すことが明らかとなったほか、hcp-Ruナノ粒子では、サイズが小さいほど活性が高くなるといった一般的な触媒活性のサイズ依存性が示されたものの、fcc-Ruナノ粒子では逆のサイズ依存性を示すことが判明した。

fcc-Ruナノ粒子とhcp-Ruナノ粒子の一酸化炭素の酸化反応活性。T50は一酸化炭素の転化率が50%に達する温度を示している。3nmから5nmの粒径を持つ新規fcc-Ru粒子は従来のhcp-Ruナノ粒子に比べ、20K程度マイルドな条件で触媒活性を示している

このfcc構造を有するRuナノ粒子は広い温度範囲で安定であり、高活性に加え高寿命の性能を兼ね備えた優れた触媒になり得ることが期待されると研究グループでは説明しており、特に金属表面上で一酸化炭素(CO)と酸素(O2)を反応させて二酸化炭素(CO2)に変換し、COを酸化除去する性能が高いことから、COが白金触媒に付着して化学反応を妨げてしまい、性能が低下することとなる燃料電池のCO除去触媒として、すでに家庭用燃料電池エネファームで使用されているhcp-Ruに置き換わる触媒として期待できるとする。

また研究グループでは、今回開発された合成手法を適用することで、これまで存在し得なかった構造を有する金属や、バルク状態では相分離する金属元素の組み合わせから原子レベルで固溶化した新しいナノ合金を創出できる可能性があるとも説明しており、既存の物質や材料に比べ安価でかつ優れた特性を有する新物質や新材料の創製につながることが期待されるとしている。