GTC 2013では、各社からデジタルデザインに関する発表が行われた。その一部を紹介する。

車などの外観のデザインは、伝統的には、デザインの2次元のスケッチ画などから、クレイモデルと呼ばれる粘土模型を作る。そしてクレイモデルを修正して形を仕上げ、形状を3次元計測してCADデータを作る。

伝統的なデザインの流れ(出典:GTC 2013におけるHarley Davidsonの講演資料)

そして、CADデータからモックアップのプロトタイプを作り、最終的な製品に仕上げていく。

次の図は、Chryslerの2次元のスケッチ画とクレイモデルの製作の様子の写真である。

Chrysler社のスケッチ画(左)とクレイモデル製作の様子(右)(出典:GTC 2013でのChryslerのRalph Gilles氏の基調講演のビデオ)

しかし、最近では紙に鉛筆でスケッチを書くのではなく、タブレットでディスプレイに絵を書くという方法が一般的になっている。Chryslerのこのシステムは、すべてのストロークを記憶しており、編集ができるとのことである。

Chryslerでのデザイナーのスケッチ作成の様子(出典:GTC 2013でのChryslerのRalph Gilles氏の基調講演のビデオ)

そして、2次元のスケッチ画から3次元の形状を創作していく作業は、特別のスキルを必要とし、専門の技術者が担当するとのことである。この作業はクレイモデルを作るのと同等の作業を電子的に行うものであり、次の図はAutodeskのインダストリデザインソフト「Alias」を用いて3Dのサーフェスモデルを作成したものである。

AutodeskのAliasを使って作成した3Dサーフェスモデルによるコンセプトデザイン(出典:GTC 2013におけるHarley Davidsonの講演資料)

次の図は、Chryslerの3Dサーフェスモデルの例で、エンジンルーム内部の詳細やロゴなども入っている。

Chryslerでのサーフェスモデルによるコンセプトデザイン(出典:GTC 2013でのChrysler社のRalph Gilles氏の基調講演のビデオ)

これらのコンセプトデザインの結果の描画にはレイトレーシングが用いられ、クレイモデルにペイントを施したものより、より実物に近いイメージを再現することができる。また、GPUの性能向上により描画が速くなり、リアルタイムでいろいろなアングルから見たイメージを見ることも可能になってきた。

そして、 Chryslerのエンジンルームのイメージに見られるように、細かい部分まで再現されており、これはクレイモデルでは実現が難しいデジタルデザインのメリットである。しかし、クレイモデルは実物大であり、サイズの小さいディスプレイ上の画像では完全に置き換えることができず、Chryslerでは今でも一部はクレイモデルを作っているとのことである。

コンセプトデザインで問題が見つかればクレイモデル、あるいはデジタルのコンセプトデザインに戻って修正を行い、これを繰り返してコンセプトデザインを完成する。そして、コンセプトデザインがOKとなると、製造用のCAD設計が行われ、その結果をプロトタイプで確認するが、確認の一環としてレイトレーシングを用いたビジュアライゼーションソフトで外観や内部を確認する。次の図は「Bunkspeed」というソフトを用いて外観を確認する例である。

Bunkspeedによる視覚化でプロトタイプ確認を行う(出典:GTC 2013におけるHarley Davidsonの講演資料)

このようなデジタルデザインはChryslerやHarley Davidsonのような車やオートバイの世界だけでなく、他の業界でも使われている。運動靴のNikeは、ランニング用、バスケットボール用、トレーニング用など各種の靴を作っており、それらの男性用、女性用を数か月の単位で新モデルを出すので膨大な種類の靴のデザインを必要とする。このため、Nikeもデジタルデザインを使い、Bunkspeedで最終デザインを描画して確認している。

Bunkspeedによる視覚化でプロトタイプ確認を行う。Nikeは素材の質感にこだわったレンダリングを行っている(出典:GTC 2013におけるNike社の講演資料)

Nikeの開発部門は米国にあるが、工場は全て海外にあるという。そのため、ディジタルデザインのデータを海外の工場に送り、試作した靴の実物を確認しなくても、製造に入るとのことである。しかし、そのためにはディジタルイデザインのメージの正確性が重要であり、生地などの素材の質感にこだわったレイトレーシングを用いたレンダリングを行っているという。

デザインはデザイナーの感性による部分が大きいので、全ての過程がディジタルデザインで効率化できるわけではないが、GPUを使ったインダストリデザインシステムを使うことにより、クレイモデルの作成や3次元計測、プロトタイプの製作など手間のかかる工程を短縮して、開発期間の短縮や生産性の向上が行われている。