東京メトロのトンネル区間全線で、携帯電話の利用が可能になった。有楽町線・副都心線の小竹向原駅から千川駅間は、立体交差化によって連絡橋を設置しているため、エリア化が遅れて2016年度中になるが、それ以外の区間は、3月21日の正午から、全区間で利用できるようになっている。このトンネル区間エリア化は、どのように進められたのだろうか。
地下鉄のエリア化、まずは駅構内から
地上を走る鉄道とは異なり、地下鉄では地上の基地局の電波が届かないため、携帯電話のエリア化を進めるにあたり、新たに電波を発する基地局を設置する必要がある。
駅構内では、1つ1つの駅に基地局を設置するのではなく、各社の基地局から共通の光伝送装置を経由し、中継装置を経て、構内に設置されたアンテナから電波を発してエリア化をするかたちになる。
この時、1つの伝送装置が複数の駅をカバーする形になっており、各駅とは光ファイバケーブルで結ばれているのが普通だ。基地局は駅構内に置かれていたり、別の場所に設置されている場合もあるが、いずれにしても駅構内の光伝送装置経由でネットワークが構築されている。ちなみに、基地局は携帯各社が設置するが、駅構内の光伝送装置は、後述する移動通信基盤整備協会の管轄だ。
地下鉄の携帯エリア化は、まずはこの駅構内への対応からスタートした。もともと、日本では電車内での携帯電話の利用に対して厳しいマナーが設定される傾向がある。
ただし、音声通話に対する風当たりは強い。PDC方式の第2世代携帯電話の頃に、心臓ペースメーカーなどの埋め込み型医療機器に電波が影響を与える可能性から、混雑した車内や優先席付近での利用を避けるよう求められていたのが影響したこともあるだろう。現在、一般的に利用されている3G携帯電話では、総務省の実験で心臓ペースメーカーなどの埋め込み型医療機器などに影響がないことが確認されているが、現在でも優先席付近で電源を切る、音声通話をしないといったアナウンスを鉄道各社が行っている。
そのため以前は、地下鉄の電車内での携帯電話の利用に対する要望が、現在ほど高くなかった。それでもメールなどの利用でエリア化を求める声は東京メトロなどにも届いており、2008年ごろから、東京メトロと移動通信基盤整備協会(JMCIA)の間で、地下鉄トンネル内のエリア化についての話し合いがもたれるようになったという。JMCIAは、地下鉄駅構内などの電波が届きづらい場所に対して、共同でエリア化の整備を行うことなどを目的として携帯事業者らが参画している団体で、設立当初の名称から「トンネル協会」とも呼ばれている。
約5年に渡る検討でトンネル内をエリア化
当初は東京メトロとJMCIAとの話し合いによって、地下鉄トンネル内エリア化の検討が進めてきたが、昨今のスマートフォン人気で地下鉄内でもWebやSNSなどの利用が求められるようになり、エリア化の要望が強くなってきたことから話し合いが加速した。
エリア化の方法について、駅からトンネル内に向けて電波を発する吹き込み方式やアンテナ設置方式、漏えい同軸ケーブル方式といった方法の中から最適なものを検証してきたという。
鉄道トンネル内のエリア化については、2005年に開業したつくばエクスプレスで無線LANによる携帯エリア化を実施しており、東京メトロとJMCIAでも、2008~2009年ごろに銀座線、日比谷線の一部でエリア化の試験を実施していた。
最終的に、ケーブルから信号が「漏れる」ことで、ケーブル周辺に電波を発信できる漏えい同軸ケーブルが採用された。ケーブル沿いに安定して電波を発信できること、カーブの多い地下鉄トンネルでも容易にエリア化できることが決め手だったそうだ。
これが最初に実施されたのが、2011年12月開始の東急目黒線目黒駅~洗足駅間、東急田園都市線渋谷駅~二子玉川駅間のトンネル区間のエリア化だったという。
それから1年ほどさかのぼった2010年末ごろには、JMCIAと東京メトロ、都営地下鉄との話し合いも合意に達し、地下鉄のトンネル区間エリア化が決定していた。計画としては、数年をかけてトンネル内の工事を進め、エリア化をする予定だったようだ。
そこに突如降ってわいたのが、ソフトバンクの孫正義社長と猪瀬直樹・東京都副知事(当時、現・都知事)とのTwitterのやりとりを発端として設定されたという会談だ。会談では、地下鉄トンネル内のエリア化についての話し合いが行われたようだが、この時にはすでにJMCIAと地下鉄側の合意は決定しており、関係者の間では困惑も広がった。