九州大学(九大)は、カーボンナノチューブ(CNT)を利用した高性能燃料電池触媒の作製に成功したことを発表した。

同成果は、同大 大学院工学研究院 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の中嶋直敏 教授、同 藤ヶ谷剛彦 准教授らによるもの。詳細は、Wileyの「Advanced Materials」オンライン版で発表された。

エネルギーロスが小さく、副生成物は水だけの燃料電池は、クリーンな発電システムとして注目されており、日本では、2015年に自動車用燃料電池の本格普及を目指した取り組みが進められているが、一般的な反応触媒として白金が使用されるため、普及のためにはさらなる効率と耐久性の向上が求められている。

白金の反応効率を高めながら、長寿命化を図るためには、ナノサイズ化した白金粒子を電極の上に均一にかつ長時間担持させる必要があるが、電極に用いられている炭素でできた粉末(カーボンブラック:CB)が、動作中に溶解してしまうため、白金を長時間担持することができず、結果として電池の長寿命化の妨げとなっていた。

そこでCBの代替材料として、より強固な構造を持つカーボンナノチューブ(CNT)に期待が集まっているが、その構造は白金を担持しにくい性質であるため、従来は白金を担持するために構造に欠陥部を導入して担持を行っており、それがCNTが持つ耐久性を失わせてしまっていた。

これまで研究グループでは、CNT表面に白金担持の「のり」となる高分子をコーティングし、白金担持を行う手法を考案していたが、今回の研究では、電子を通さないポリマー「ポリベンズイミダゾール(PBI)」をCNT表面に数nmのレベルで均一にコーティングすることで、触媒反応に必要な電子の受け渡しが行われ、白金のほぼ100%が担持されることを確認したほか、白金のサイズ均一性や分布の均一性に優れることが確認されたという。

図1 研究グループが開発した触媒担持法で作製された触媒の電子顕微鏡写真

また、従来の触媒構造では反応に必要な水素イオンを運搬する電解質が白金表面を厚く覆っているため、反応に必要な水素や酸素などの燃料ガスが白金表面に到達しにくかったが、PBIでは酸をドープすることで水素イオンを運搬できる特長があるため、耐久性に優れたCNTの構造を維持しつつ、触媒反応を有利にする構造を作製可能な触媒作製法「ボトムアップナノ集積法」を確立したという。

図2 従来法と今回のボトムアップナノ集積法により作製された触媒界面構造の比較

さらに、従来の水素イオン運搬高分子では加湿を必要とし、かつ80℃以下の低温での発電だったのに対し、PBIは加湿を必要とせず、触媒反応に有利なより高温(100℃以上)でも水素イオンを運搬できることから、より安価かつ高効率な発電システムが実現できるようになるという。

なお研究グループでは、燃料電池の実用化には高価な白金を大量に使用することが問題となっているが、長寿命化や単位白金あたりの活性を向上させることで、白金使用量の低減が可能となり、それにより実用化が進むことが期待できるとしており、今後は、本格的な実用化を視野に入れた実証試験を進めていく計画としている。