横浜市立大学(横浜市大)は2月15日、がん治療の標的酵素「MMP-2」に対する高特異性インヒビタータンパク質「APP-IP-TIMP-2」の創出に成功したと発表した。がんをはじめとしたMMP-2が関与する疾患の治療薬としての応用が期待されるという。

成果は、横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科の東昌市 准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、2月10日付けで米国科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に掲載された。

悪性のがん組織では、「マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)」と呼ばれるタンパク質分解酵素が高発現し、がん細胞の浸潤・転移を支えているため、これまでその転移などを抑えることを目的に多くのMMPs阻害剤が開発されてきたが、20種以上存在するMMPsの内、がん治療の標的となるMMPsのみに作用する選択的阻害剤の開発が困難であったこともあり、がん治療薬としての利用には至っていない。

研究グループでは、これまでの研究から「アミロイド前駆体タンパク質(APP)」分子内の「ISYGNDALMP配列」にMMP-2選択的インヒビター活性があることを見出し「APP-IP」と命名してきたほか、APP-IPが標的MMPsの1つであるMMP-2に対し、選択的阻害活性を持つことを見出し、機構の解明などを行ってきた。

今回の研究では、APP-IP配列をTIMP-2のN-末端に導入することで、APP-IPのMMP-2選択的阻害活性を向上させる方法を考案。具体的には、MMP-2非触媒部位とTIMP-2のC-末端部位との特異的相互作用により、TIMP-2のN-末端インヒビター部位がMMP-2酵素触媒部位に近づくことが予想されたことから、このN-末端部分にAPP-IPを導入することで、選択性の低いTIMP-2インヒビター部位が消失し、代わりにAPP-IPが酵素触媒部位に呈示されると考えたという。

実際に「APP-IP-TIMP-2」と命名した融合タンパク質を作製し、MMP-2阻害活性を調査した結果、APP-IP-TIMP-2(Ki=0.68pM)はAPP-IP(Ki=30nM)と比較して4万4000倍高い阻害活性を持つことが確認されたが、ほかのMMPsに対する阻害活性はほぼ検出されず(Ki>1μM)、特異性の高いMMP-2インヒビターであることが判明したとする。

なお、研究グループでは、APP-IP-TIMP-2はがん細胞とともに培養して少なくとも4日間、インヒビター活性が変化しないことを確認しており、この結果、MMP-2の生理的あるは病理的役割を簡便に調べる上で優れたツールとなることが示されたとしており、がんをはじめとしたMMP-2が関与する疾患に対する治療薬、しかも副作用の極めて少ない治療薬となることが期待されるとコメントしている。

TIMP-2(画像1:左)と、APP-IP-TIMP-2によるMMP-2(画像2:右)によるMMP-2阻害様式の比較