北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、産業技術総合研究所(産総研)、理化学研究所(理研)の3者は、自然界に存在し、身近な元素である銅と硫黄を多く含む鉱物「テトラへドライト」が、400℃付近で高い「熱電変換性能」を示すことを発見し、この高い性能が、複雑な結晶構造と銅原子の異常大振幅原子振動に起因した極端に低い熱伝導率によることを明らかにしたと共同で発表した。

成果は、JAIST マテリアルサイエンス研究科の末國晃一郎助教、同・小矢野幹夫准教授、産総研 エネルギー技術研究部門 熱電変換グループの太田道広研究員、同・山本淳研究グループ長、理研 放射光科学総合研究センター 理研RSC-リガク連携センターの西堀英治連携センター長らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国時間1月28日付けで米国応用物理学会誌「Journal of Applied Physics」オンライン版に掲載された。

固体素子を用いて熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能な熱電変換は、廃熱などの有効活用先として期待されている。特に自動車が工場などの高温排気中の中温廃熱(300~500℃)の回収・利用が求められているものの、従来の熱発電システム向けには使用上限温度250℃のBi-Teが用いられているため、中温域での利用は難しかった。また、現在、中温領域で有望視される熱電材料のほとんどは鉛などの有害元素を多量に含んでおり、実用化への課題となっていた。

研究グループは、身近で環境にやさしい元素であるCuとSを含む鉱物に注目した熱電材料の探索をおこなってきており、これまでに自然界に存在する硫化鉱物のテトラへドライトとほぼ同じ組成を持った「Cu12-xTrxSb4S13(Tr:遷移金属)」を人工的に合成、Trx=Ni2.0の物質が室温付近において比較的高い熱電変換性能を示すことを報告している。

テトラへドライトは熱電材料として有望視されており、2012年には米ミシガン州立大のグループがZnとFeを置換した材料において高い熱電変換性能を報告している。

画像1。天然のテトラへドライト(Cu,Fe,Ag,Zn)12Sb4S13(産総研地質標本館が所蔵する標本)

画像2。テトラへドライトCu12-xNixSb4S13とさまざまなp型鉛フリー硫化物の無次元熱電性能指数ZT

今回の研究では、これまでの成果の発展をめざし、JAISTで合成したテトラへドライトCu12-xNixSb4S13を、硫化物熱電材料の開発に実績がある産総研にて高密度化ならびに高温物性測定を行ったほか、熱電材料の結晶構造解析に実績がある理研の大型放射光施設SPring-8を用いてX線回折実験によりテトラヘドライトの高い熱電変換性能の主な要因である低い格子熱伝導率の原因の解明に向けた結晶構造と原子の振動の調査が行われた。

これらの調査の結果、今回作製された「Cu12-xNixSb4S13」の母体x=0の無次元熱電性能指数ZTは、実用温度である約400℃(673K)において0.5を示すことが確認されたほか、xの量を細かく調節することで、ZT値はx=1.5組成において0.7まで向上することが確認された。この値は、約7%の熱電変換効率に相当し、過去に報告されたp型鉛フリー硫化物の中では最も高い値だという。

また結晶構造の調査から、CuS3三角形の中心に位置するCu原子が、三角形面に垂直な方向にゆっくりとした(低エネルギーの)大振幅振動することがわかった。この結果から研究グループは、Cuの大振幅原子振動が、硬いCu-Ni-Sb-Sネットワークを伝搬する熱を阻害し、低い熱伝導率を実現したものとするほか、大振幅振動がSbS3ピラミッドの頂点のSbの方向に向けて起きているため、Sb3+の不対s電子による静電的な相互作用がCuの振動状態に重要な役割を果たしている可能性があるとしている。

画像3。テトラへドライトの結晶構造の一部。CuがSbの方向に大振幅振動する様子を示している

今回の成果について研究グループは、鉱物における低い熱伝導率をもたらす結晶構造の特徴を示したことは、より高い性能を持つ熱電発電硫化鉱物の開発につながり、環境にやさしい熱電発電の実現につながるとしており、今後は、テトラへドライトの性能向上を進めていくと共に、高性能熱電材料の発見を目指して、類似構造を持つ物質にも注目して材料開発・探索を進める予定とするほか、環境にやさしい鉱物熱電発電システムの開発も進めていきたいとしている。