2013年2月13日、国際宇宙ステーション(ISS)の第32/33次長期滞在クルーとして、4カ月のISS滞在を終えた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の星出彰彦宇宙飛行士が日本に一時帰国し、記者会見を行った。

星出飛行士のISS滞在は2008年に続いて2回目となる。「長いようで短い、あっという間のことだった。最高の時間を過ごさせてもらった」と笑顔で語った星出飛行士はさらに「ISS滞在は久しぶりの場所に4年ぶりに出張してきたという感覚。宇宙に常に人間がいるようになって10年以上経つ。今の子供は宇宙を遠いところではないと感じているのではないか」と宇宙活動が身近になっていると強調した。

笑顔交じりに宇宙での生活を語る星出飛行士

2012年7月15日にソユーズ宇宙船でISSへ向かった星出飛行士は7月17日にISSに到着。星出飛行士を追いかけるように7月21日に打ち上げられた日本の補給機「こうのとり」3号機をロボットアームでとらえて係留した。ISSの運用や補修、30件以上の宇宙実験といったさまざまなミッションをこなして11月19日、往路に搭乗してきたソユーズ宇宙船に再び乗り込み、ISSを離脱後約3時間で大気圏へ再突入し無事帰還した。

ミッションのハイライトは宇宙服を使っての船外活動である。星出飛行士は8月末と9月、11月に合計3回の船外活動をこなし、ISSの外から部品の取り付けや交換を行った。3回の作業の合計時間は21時間23分となり、日本人宇宙飛行士の船外活動時間の記録を更新した。

船外活動の経験について星出飛行士は「ISSの外から地球を見られた体験はとても大きかった。宇宙服は小型の宇宙船であり技術が詰まっている。日本も独自の宇宙服を研究しておりこの体験から自分なりのフィードバックをかけられれば」と今後の技術開発に期待を寄せた。

船外活動中に星出飛行士が笑顔で「自分撮り」した写真(C)JAXA/NASA

また10月には、小型衛星5機の放出ミッションも行われた。

ISS内で星出飛行士が小型衛星の放出機構を組み立てて小型衛星をセットする。「きぼう」日本実験棟のエアロックを通じて「きぼう」のロボットアームでISS外の宇宙空間へ搬出、そこから小型衛星を放出するというもの。ISSからの衛星放出はロシアも船外活動で行っているが、「きぼう」からの放出では宇宙飛行士が船外へ出る必要がない。

5機の小型衛星のうち4機、「RAIKO」(和歌山大学、東北大学)、「WE WISH」(明星電気)、「FITSAT-1」(福岡工業大学)、「TechEdSat」(サンノゼ州立大学)は通信に成功。ベトナムのFPT大学が開発した「F-1」のみ、残念ながら信号を受信できていない。

今回星出飛行士が組み立てた衛星放出機構は再利用できる。JAXA産業連携センターはこの1月、ISSから放出する小型衛星の通年公募を行うと発表した。星出飛行士は「次回からは衛星が入ったカセットを用意すればよく、効率的な運用が可能。衛星打ち上げの新しいインフラになる意義は大きい」とアピールした。

星出飛行士の操作でISSから放出された2機の小型衛星、「RAIKO」と「WE WISH」(C)JAXA/NASA

ソユーズ宇宙船での大気圏再突入時の様子に質問が及ぶと「語り始めると一日では終わりませんよ」と顔がほころんだ。星出飛行士の前回のISS滞在は往復ともスペースシャトルによるもので、初めてのソユーズでの帰還は新鮮な体験だったようだ。

滑空しつつ降りてくるスペースシャトルの着陸は飛行機に近いソフトなものだったが、ソユーズはカザフスタンの大地に比較的激しく着地する。「ソユーズ内の高度計は少し遅れるので、高度数百メートルから身構えるようにと言われていた。来るぞ来るぞ、あれ来ないと思ったときにズンと衝撃が来た。ほかの飛行士には、君のシートの下から着地したねと言われた」と、そのときの様子を生き生きと語った。

ソユーズのようなカプセル型宇宙船と、スペースシャトルのような有翼宇宙船のどちらで地球へ戻りたいかとの質問には「衝撃が少ないシャトルがありがたいがカプセル型にも信頼性などの利点がある」としつつ、「日本が将来有人宇宙船を開発するならカプセル型は避けて通れない。種子島宇宙センターから宇宙へ行って帰ってくるときにはまずカプセル型となるだろう」と、今後の日本の有人宇宙船計画について踏み込んだ回答があった。

JAXAは回収機能付加型の「こうのとり」(HTV-R)を研究している。将来の有人宇宙船につながる技術である。しかし政府が2013年1月にまとめた新しい宇宙基本計画案ではHTV-Rに触れていない。

そればかりでなく、計画案にはISSや有人宇宙活動は費用対効果を厳しく精査するとの文言が盛り込まれている。「きぼう」での宇宙実験に関しても、産業競争力強化につながる成果が出ていないと手厳しい。ISSの予算削減について聞かれた星出飛行士は「コストを削減しつつ、今あるものは使える限り使うべき。2020年以降の利用延長にも賛成」と述べた。また「現在の実験は基礎研究に近く、すぐには大きな成果は出ない。それぞれの実験では次につながる成果が出ている」と実績をアピールした。

星出飛行士の日本滞在は3月上旬までの予定。滞在中は各地で報告会を開催するほか、技術者との意見交換なども行う。「報告会では宇宙の楽しさ、地球の美しさだけでなく、多くの人と仕事をするすばらしさを伝えたい。宇宙開発という最先端の技術も根本は人間が思いを込めて作ってきたものであり、それが形になっている。このようなミッションができたのはこういう人たちがいたからだと自分の体験を通して伝えていきたい」と語った。なお報告会の日程は以下の通り。

なお、今後の日本人宇宙飛行士の活動については、若田光一飛行士がISSのコマンダー(船長)として2013年の年末ごろから半年間、油井亀美也飛行士が2015年6月ごろから半年間、それぞれISSに長期滞在する予定となっている。

星出宇宙飛行士 帰国報告会の日程予定

2月16日(土)13:30~15:00
  • 会場:秋田県児童会館(秋田県秋田市山王中島町1-2)
  • 主催:秋田魁新報社、宇宙航空研究開発機構(JAXA)
2月17日(日)16:30~18:15
2月21日(木)18:30~20:30
2月22日(金)18:30~20:00
2月23日(土)14:00~16:00
2月24日(日)18:30~20:00
  • 会場:浜松市浜北文化センター(静岡県浜松市浜北区貴布祢291-1)
  • 概要:http://www.hcf.or.jp/hall/detail.php?id=10920(参加申し込みは2月15日まで)
  • 主催:公益財団法人浜松市文化振興財団、宇宙航空研究開発機構(JAXA)
3月9日(土)
  • 概要:高校生未満対象、詳細は後日発表
  • 主催:宇宙航空研究開発機構(JAXA)