サンライズの海外展開について

サンライズ尾崎氏

『機動戦士ガンダム』シリーズや『TIGER&BUNNY』といったヒットアニメを数多く抱えるアニメ制作会社サンライズは現在、著作権保有コンテンツを267作品、時間にして実に2153時間分も所有している。そんなサンライズ作品の海外展開はどのように行われているのだろうか。

同社・尾崎氏が海外展開の事例としてまず挙げるのが、ブルーレイディスクを世界同時発売した『機動戦士ガンダムUC』と、公式サイトで世界同時配信を行った『機動戦士ガンダムAGE』である。これらの情報は「ガンダムインフォ」と呼ばれる公式サイトに集約されており、その国に最適化した各国語版も用意されている。

こうした積極的な展開には、海外におけるアニメ市場の現状が大きく影響している。尾崎氏によれば、海外では配信サービスは拡大しているもののパッケージ市場の低迷をカバーできるほどではなく、さらに情報の即時性が高まっていることでヒット作品に飛びつく傾向があるという。ファンは今流行っている作品をできるだけ早く見たいのである。

また、違法アップロードの問題も根強く、放送された直後に字幕が付けられてアップされる作品は後を絶たない。公式でなるべく早く提供することで、数千万にものぼると見られている海賊版視聴者を減少させる効果が期待できるのだ。

一方で、サンライズは海外でのアニメイベントにも積極的に参加している。たとえばロサンゼルスでの「Anime Expo」や、パリでの「Japan Expo」、香港での「C3 in HongKong」などだ。海外のファンは、こうしたイベントでプロデューサーや監督が顔を見せて喋ってくれることに価値をおくことも多く、プロデューサーがサインを求められることもあるという。サンライズのこうした活動は、ビジネスというよりもファンへのサービスを重視したものである。

また、アニメの実写化については、積極的に実写化するというよりも、実写化された結果、世界的に原作の認知が拡大するかどうかが重要であると尾崎氏は語る。そこで判断の材料となるのが、オファーを出したところに「作品に対する愛があるかどうか」である。実写化が失敗すると原作にも悪影響を及ぼしかねないことを考えれば、作品のクオリティを左右する"作品への愛"は意外に重要な要素なのだ。

なお、海外実写化の発表から4年が経過している『カウボーイビバップ』については、最終的に実現するかどうかはわからないものの、現在も企画は動いているという。実写化のオファーという意味では『機動戦士ガンダム』も多いが、先ほどの"作品への愛"やそもそもヒットするかどうかなども含め、権利の調整や対価との折り合いがつかず、実写化には至っていない。

尾崎氏は今後の海外展開についての所見として、無料配信などの「種まき」から認知度向上へとつなげ、熱を共有することで最終的にマネタイズしていくという目論見を語った。その最たる例が、『機動戦士ガンダムAGE』と『機動戦士ガンダムSEED』リマスター版の即日配信である。先ほどの話にも繋がるが、公式配信前は数千万の視聴数が海賊版だったことに対し、公式配信後はその数千万全てが公式に流れている。配信自体は無料だが、その数千万人が作品を好きになって「ガンプラ」などの関連グッズ購入への動き、そして結果的にマネタイズに繋がればいいという考え方だ。

一瞬にして情報が共有されるこの時代に、日本と世界でタイムラグをつくることは大きな損失を生みかねない。サンライズのスピード感は、日本のアニメが世界展開を目指す上での重要なヒントになるだろう。