北海道大学(北大)は2月5日、日立製作所との共同研究として、北大が開発した「レーザー超高圧電子顕微鏡」(レーザー発振装置を搭載した130万Vの高圧電子顕微鏡)を用いたレーザーと電子線の同時照射によって原子の空孔(欠損)を作り、それが集まって「ボイド」形成と呼ばれる空孔集合体が成長する現象を見出し、そのメカニズムの解明と、その発生の抑制に成功したことを発表した。

成果は、北大 超高圧電子顕微鏡研究室の渡辺精一教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間2月4日付けで英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

材料の安定性を支配する重要な因子である材料中の空孔の存在とその拡散は古くから知られており、急冷や拡散現象、あるいは電子線、イオンなどの高エネルギー量子ビーム照射により研究が行われてきた。しかし、レーザー溶接やレーザー加工といった強いレーザー光が材料に損傷を与える、ということ自体は知られていたが、レーザー照射による原子空孔という原子レベルでの欠損に関する情報はよくわからないままとなっていた。

そこで研究グループは空孔の形成過程の研究を進め、「ネオジム・ヤグ(Nd:YAG)ナノ秒レーザー(短時間パルス化レーザー光)」を130万V超高圧電子顕微鏡に敷設し、試料の「316Lステンレス鋼」の上からビーム径2mmで直接照射することで、レーザーの当たっているところにボイドができることを原子レベルで確認。ボイド形成は、導入された空孔が次第に集まる自己集合化によりレーザー照射下で起こっている現象であることを突き止めた。

画像1。レーザー超高圧電子顕微鏡内でのレーザー・電子線同時照射実験の配置図(試料は直径2mm)

画像2。レーザー・電子線照射のボイド形成写真。(a)電子線のみ、(b)レーザー照射のみ、(c・d)レーザー照射の後に続いて電子線照射、(e)レーザー・電子線同時照射:時間および温度は下図に記入(RTは室温)

電子線照射とレーザー照射を単独で照射する実験のほか、レーザー照射を行ってから電子線を照射したり、レーザーと電子線を同時に照射したりするなどの実験を繰り返し、理論計算との比較を行った結果、ボイド形成の抑制メカニズムを解明することができたと研究グループでは説明するほか、電子線とレーザーの同時照射の方が電子線照射単独よりもボイド形成が抑制される「1+1<1」効果があることも突き止めたという。

画像3。北大所有のレーザー超高圧電子顕微鏡

画像4。レーザー・電子線照射のボイド抑制メカニズム。(a)電子線のみ、(b)レーザー照射のみ、(c)レーザー照射の後に続いて電子線照射、(d)レーザー・電子線同時照射

材料内に発生するボイドは、「スエリング」という材料の膨れ現象や、機械的強度の変化をもたらすため、その発生を抑制するための解決が必要とされているが、研究グループでは今回の成果から、宇宙環境で使用したり、放射線場などの過酷な環境で使用することを目的とした、高い信頼性を要求される材料の研究開発が進むものとの期待を示している。

なお、今回の研究で使用されたたレーザー超高圧電子顕微鏡は、「ナノテクノロジープラットフォーム」ならびに「大学間連携共同利用設備群 超高圧電子顕微鏡連携ステーション第II期」事業による共同利用装置として利用が可能だという。