東京大学(東大)は、MEMS技術を活用した3種類の計測ならびにセンサ技術を開発したことを発表した。

同成果は、同大IRT研究機構の下山勲 教授(IRT機構長)らによるもので、詳細は2013年1月20日から24日にかけて台湾の台北で開催された国際学会「The 26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS2013)」にて発表された。

今回発表された3つの技術は以下のとおり。

  1. 昆虫の歩行時に発生する力を計測するMEMSフォースプレート
  2. 高感度絶対圧センサ
  3. グラフェンを用いた超低電圧・低消費電力のガスセンサ

1つ目の昆虫の歩行時に発生する力を計測するMEMSフォースプレートは、アリなどの小型昆虫の6脚それぞれにかかる力を測定することを目的に開発された技術。従来の力センサでは、センササイズが昆虫に対して大きいため、複数の脚にかかる力を独立して計測することが困難であった。そこで、下山教授および高橋英俊 特任研究員らの研究チームでは、MEMSを用いたフォースプレートによる計測方法を提案。従来のフォースプレートは、人の運動解析などを目的としており、数百Nオーダーの力の測定しかできなかったが、今回のMEMSフォースプレートは、MEMS技術を用いることで、マイクロサイズのプレートを昆虫の脚の間隔に合わせてアレイ状に自由に配置できるほか、ピエゾ抵抗を用いることでμNオーダーの微小な力の計測が可能となっている。

このMEMSフォースプレートはSOI基板のデバイス層内に、プレートを支えるビームの付け根の表面と側面にピエゾ抵抗層を形成。プレートの上に昆虫の脚が接地すると、プレートに加わる力によってビームが変形し、ピエゾ抵抗層の抵抗値が変化する仕組みを採用している。この抵抗値の変化を計測することで、プレートに垂直および水平に加わる2方向の力を計測することができ、これにより各脚に発生する力を同時に計測することができるようになったという。

実際に試作されたMEMSフォースプレートは、約1mm角の大きさのプレートが、1.25mmの間隔で直列に配置されたもので、1μN以下の分解能を持つ。クロヤマアリがプレート上を歩行する際の力を計測した結果、最大で自重の半分程度である10~20μNの力が発生していることが確認され、歩行に合わせた各脚にかかる力の推移の観察に成功したという。

この成功を受けて、研究チームでは、今後、同計測方法を用いることで、昆虫独自の歩行のメカニズムの解明につながることが期待されるほか、将来的には人が入れない場所で安定して歩行できる多足ロボット開発など、工業技術への応用も期待できるようになるとしている。

試作したフォースプレートの写真

2つ目の高感度絶対圧センサは、10cmの高さの変化で生じる気圧の変化量(1Pa)以下の分解能をもったセンサの実現を目的に開発されたもの。

ヒトが一般的に生活を行う空間の大気圧は約0.1MPaで、地表より1m高くなるごとに、気圧は約10Pa下がることが知られている。今回の研究では、下山教授および博士課程2年のNguyen Minh-Dung氏らの研究チームが、ピエゾ抵抗型片持ち梁(カンチレバー)を小型の空気室の上に配置し、空気室を密閉状態にするために、カンチレバーと周りの壁との隙間(ギャップ)を液体で埋める構造を考案した。

このピエゾ抵抗型カンチレバーはSOI基板のデバイス層内に形成されており、カンチレバーの表面にピエゾ抵抗層が形成されている。圧力によってカンチレバーが変形してピエゾ抵抗層の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化を計測することで、加えられた圧力を計測することが可能になるという仕組みを採用。従来のシリコンダイヤフラム型の圧力センサにくらべて、圧力を受けるカンチレバー素子が柔らかいため、感度の高い圧力センサを実現できるほか、絶対圧を測れるため、カーナビに応用し、加速度計では測れない地表からの高度情報を得ることができるようになるという。また人体の音(筋音・心臓音・循環器音など)を計測する聴診器などにも応用ができるほか、液体で封止しているため水中マイク(ハイドロフォン)などの応用も期待できるという。

実際に試作されたカンチレバーの大きさは125μm×100μmで、厚さ300nm。カンチレバーの周りは1μmの狭いギャップが形成されており、液体は表面張力の作用によって下の空気室に漏れない構造になっているという。

絶対圧センサの概念図および写真

3つ目のグラフェンを用いた超低電圧・低消費電力のガスセンサは、グラフェンをチャネルに持つ電界効果トランジスタと、それを覆うイオン液体で構成されたガスセンサ。下山教授および同博士課程2年の稲葉亮氏らの研究チームによる成果だ。

従来のガスセンサは酸化物半導体を高温下で用いるものが主流であり、消費電力は100~1000mW程度であった。今回開発されたセンサは素子にグラフェントランジスタを使用し、イオン液体とそのグラフェンを構成する炭素原子すべてが接することで、室温下でも周囲のガス種・濃度の変化に敏感に反応でき、その電気特性を変化させることが可能である。

実際に試作したセンサは、グラフェンチャネルの大きさが50μm×20μmで、約0.1μlのイオン液体がチャネルおよびソース・ドレイン・ゲート電極上に滴下されている。このセンサを空気中およびアンモニアガス中に配置したところ、30ppmのアンモニアガスに対して7.69μAから7.12μAの電流変化が計測されたほか、別の種類のイオン液体を使用したセンサは、0.4%の二酸化炭素ガスに対して2.80μAから2.73μAの電流変化を示すことが判明した(いずれも0.8Vのゲート電圧条件下で計測)。

この結果、従来のグラフェントランジスタ型ガスセンサでは駆動に10~100V程度の電圧が必要だったのに対し、イオン液体によって1V以下で駆動できることが示された。また、グラフェントランジスタにおける消費電力は100nW以下であり、研究チームでは、同技術を活用することで高感度ガスセンサの小型化・省電力化が進むことが見込めると説明している。

ガスセンサの構成

製作したガスセンサの概観およびグラフェンチャネルの拡大写真