静岡がんセンターは、「膵がん切除後の補助化学療法における塩酸ゲムシタビン(GEM)療法とTS-1療法の第III相比較試験(JASPAC 01)」において、従来の膵がん患者の再発率を下げるために使用されてきた補助化学療法(抗がん剤治療)のGEMよりも、飲み薬タイプの新薬であるTS-1が著しく良好な結果を得たと発表した。

成果は、静岡がんセンター副院長兼肝・胆・膵外科部長の上坂克彦医師らの研究グループによるもの。米国時間1月25日に、上坂医師が「米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム」にて発表を行う予定だ。

日本における膵がんの罹患数は、2007年の統計で約2万9000人、死亡数は2011年の統計で約2万8900人と報告されており、年々増加傾向にある。がん死の比較では、肺、胃、大腸、肝に次いで、第5位だ。

膵がんでは切除術が唯一根治を目指すことができる治療だが、切除可能な症例は20~30%前後にすぎず、たとえ切除できたとしても、術後2年以内に約7割が再発すると報告されている。切除後の5年生存率はおよそ20%と、最も予後の悪いがん腫の1つなのだ。

主な治療法には、(1)手術と術後補助化学療法、(2)化学療法単独、(3)化学療法と放射線治療の併用、などがある。切除が可能な場合の主な術式は、(1)膵頭十二指腸切除、(2)膵体尾部切除、(3)膵全摘術だが、膵臓付近は血管や臓器が複雑にからまっているため、膵臓の手術を多く手掛けている病院で手術を行うことが望ましいと考えられている病だ。

そして今回の試験のJASPAC 01は、膵がん補助化学療法研究グループであるJASPAC(全国33の医療機関が参加)によって行われた臨床試験で、2007年4月から2010年6月までの3年3カ月間に計385例の患者が登録・参加して行われた。

手術で切除可能なステージI期~II期およびIII期の一部の膵がん患者に対する再発のリスク低減と生存率の向上を目的とした術後補助化学療法についての第III相臨床試験だ。従来の標準治療薬であるGEMと、TS-1単剤の効果を比較するものである。

対象は、膵がん切除後(UICC第6版病期分類 stageII以下、もしくは腹腔動脈合併切除が行われたstageIII)の患者で、GEM単独で治療する群と、経口抗がん剤であるTS-1単独で治療する群の2つの群を比較したものだ。主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無再発生存期間および安全性などである。

投与方法は、GEM単独の治療群は、1000mg/m2のGEMを1日目、8日目、および15日目に点滴静注し、22日目は休薬する28日を1コースとし、6カ月間投与するスケジュールだった。

TS-1単独の治療群は40~60mgのTS-1を1日2回、28日間連続経口投与し、その後14日間休薬する42日を1コースとし、4コース(6カ月間)まで実施するスケジュールである。

2012年7月までの追跡データに基づいて中間解析が行われたところ、2012年8月27日、第3者機関である「効果・安全性評価委員会」から中間解析の結果を早期に公表するよう勧告があり、今回、ASCO-GI2013において、結果を発表することになったというわけだ。

その中間解析の結果だが、TS-1群のGEM群に対するハザード比が0.56となり、TS-1を術後に投与することによって、GEMを投与するよりも死亡リスクを44%も減らせることが判明した。要は、現在の標準治療薬であるGEMと比較して、TS-1は手術後の膵がん患者の生存率を大幅に上昇させることができるというわけだ。

主要評価項目である全生存期間は、TS-1群がGEM群よりも優れていることが統計学的に証明され、2年生存率はGEM群53%、TS-1群70%だった。副次的評価項目である無再発生存期間についても、中央値はGEM群が11.2カ月、TS-1群が23.2カ月であり、TS-1群がGEM群よりも優れていることが統計学的に証明されている。

有害事象については、主なグレード3以上の血液毒性は、GEM群、TS-1群それぞれの白血球数減少39%・8.5%、血小板数減少9%・4%、血色素減少17%・13%、グレード3以上の非血液毒性は、食欲不振5.7%・8%、下痢0%・4.8%、口内炎0%・3%などだった。

今回の成果に対して上坂医師は、次のようにコメント。「今回の私たちの研究結果は、当初の私たちの予想を大きく上回る、たいへんすばらしいものでした。難治がんの代表である膵がんに対する手術後の死亡のリスクをこれだけ飛躍的に減少させた研究は近年にはなく、画期的な進歩といえます。また、TS-1は飲み薬であり、副作用の頻度もGEMと遜色なく、使いやすい薬です。今回の研究結果に基づいて、日本の膵がん診療ガイドラインが書き換わることを期待しています。またこの結果が、膵がんに苦しむ患者さんやご家族にとって、大きな福音となれば幸いです」とし、最後に今回の研究に参加した患者ならびにその家族、研究グループスタッフへの感謝の意を表明している。