金沢大学は1月9日、複数の国内外の大学の協力を得て、「コミュニケーション」をマウスのレベルで研究し、父親マウスが仔どもを養育する場面で、仔どもと分離後、母親マウスが父親マウスにコミュニケーションを取って、父親に養育を続けさせていることを発見したと発表した。

成果は、金沢大 子どものこころの発達研究センターの東田陽博 特任教授、同・大学院 医薬保健学総合研究科 脳細胞遺伝子学の劉鴻翔 博士らの国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間1月9日付けで英国科学誌「NatureCommunications」オンライン版に掲載された。

成育環境が子の心身発達に大きな影響を与えることは古くから知られており、特に親(養育者)との関係は最も重要な要素の1つといわれている。昨今、地域や家族間の絆が希薄になることが、小児の精神疾患やコミュニケーション障害につながる可能性が考えられており、親の養育能力やその神経機構を明らかにすることは、不適切養育を予防・修正する上で、重要であると考えられるようになってきた。

また、自閉症スペクトラム障害とは、相手や場の状況に合わせた振る舞いができないといった対人コミュニケーションの障害を主徴とする代表的な発達障害だ。研究グループはその社会性障害の原因を追求する中で、マウスを用いて、仔どもを認識し、子育て(養育行動)という社会性行動、特に母親マウスが父親マウスの子育て行動にどう影響するかなどに、焦点を当てて研究を進めている。

今回の研究では、子育てをするかしないかがどのような環境や条件によって影響を受けるのかについて、CRと呼ばれる系のマウスを用いて検討が行われた次第だ。このマウスの特徴は、遺伝的には父親が養育をしないとされていることである。しかし、狭い空間(ケージ)に夫婦で置いておくと、仔どもが生まれた後、父親も養育するようになるのだ。

その仔育てケージから、仔どもを引き離したところ、10分ほどなら元のケージに戻せば、養育を行うことが確認された。しかし、父親1匹を新しい環境に10分置いて、元のケージに戻すと、養育しなくなってしまうのである。

ところが、新しい環境での分離中、妻である母親マウスと一緒に置いておくと、子育てをすることが確認された。この間、母親マウスは、38kHzの声(超音波)を間欠的に出し、何かを父親に伝えていることが判明。また、母親マウスは未同定のフェロモンでも同じことを伝えているということもわかってきた。

こうした今回の成果から、マウスにおいて、養育という生存率を決める過程で、父親の養育の維持に母親が積極的に関わり、音声とフェロモンで、コミュニケーションを取っていることがわかったのである。

なおこれまでは、メスや母親マウスはメスどうしの(社会性)会話はあっても、オスには発声しないと考えられていた。しかし、今回の研究から、仔どもを失くすという決定的な(家庭崩壊の)危機的状態では、母親は父親に強力なコミュニケーションを行うことが示されたのである。

この結果は、両親行動をするために必要な脳部位や機能の研究に役立つだけでなく、脳部位や機能が重なる「社会脳(相手、相手の顔、意味を持つ行動を認識し記憶し、それに対する反応行動をするために必要な脳)」の研究としても重要だと研究グループはコメント。今後は、社会性認識障害の自閉症スペクトラム障害の脳の仕組みを明らかにしていきたいとしている。

また、今後はこの研究成果を基に、これまで乏しかった対人コミュニケーション障害をマウスで研究できるようになることを期待しているということもコメントした。