農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は12月22日、閉経女性における「β-クリプトキサンチン」の血中濃度と骨粗しょう症の発症リスク低減に関連性があることを発見したと発表した。

成果は、農研機構 果樹研究所 カンキツ研究領域の杉浦実氏、浜松医科大 健康社会医学講座の中村美詠子氏、浜松市北区三ヶ日協働センターのスタッフらの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間12月20日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

欧米を中心とする最近の栄養疫学研究から、ビタミンやミネラル類を豊富に含む果物・野菜の摂取が、健康な骨の形成・維持に重要であることが報告されるようになってきた。また、骨密度の低下に酸化ストレスの関与も示唆されるようになり、抗酸化物質が豊富な果物・野菜の摂取が骨密度の低下予防に有効である可能性が考えられるようになってきた。

「三ヶ日町研究」は浜松市北区三ヶ日地域の住民を対象にした栄養疫学調査であり、ウンシュウミカンなどの果物や野菜などに豊富に含まれる抗酸化物質であるカロテノイド類(「リコペン」、「α-カロテン」、「β-カロテン」、β-クリプトキサンチン、「ルテイン」、「ゼアキサンチン」)が健康に及ぼす影響を疫学的に明らかにすることを目的としたものだ。

研究グループはこれまでに、「三ヶ日町研究」として平成17年度に実施した非利き腕の橈骨(とうこつ)1/3遠位部(画像1)における骨密度調査から、β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い閉経女性は骨密度が高いという関連性があることを明らかにしてきた。しかし、血中のカロテノイド濃度と骨粗しょう症の発症リスクとの関連を追跡調査で評価した報告は、これまでになかった。

そこで、調査開始から4年後の平成21年に457名の協力を得て追跡調査を実施し、血中カロテノイド濃度と骨粗しょう症の発症リスクとの関連についての解析が行われた。

画像1。前腕部の骨の構造

閉経女性の内、調査開始時にすでに骨粗しょう症を発症していた被験者を除いて、血中のβ-クリプトキサンチン濃度について、低いグループから、高いグループまでの3グループに分け、各グループでの骨粗しょう症の発症率の調査を実施。

その結果、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.08となり、統計的に有意に低い結果となった(画像2)。この関連は、ビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意だったという。

画像2は、血中におけるβ-クリプトキサンチンのレベル別に見た骨粗しょう症の発症リスク(オッズ比)。年齢、身長、体重、閉経後の年数、喫煙・飲酒・運動習慣、サプリメント使用状況および総摂取カロリーで調整してある。*は、低グループに対して危険率5%未満で有為(多変量調整ロジスティック回帰分析により検定)。また傾向性は、多変量調整ロジスティック回帰分析により検定された。

なおオッズとは、ある出来事が発生しない確率に対する発生する確率の比を示し、オッズ比は2つのオッズ比を表す。画像1では、血中β-クリプトキサンチンレベルの低いグループを基準(オッズ比1)とした時、高いグループのオッズ比が0.08であり、これは血中β-クリプトキサンチンレベルの低いグループに比べて高いグループは骨粗しょう症発症のリスクが92%低いことを意味する。

画像2。血中におけるβ-クリプトキサンチンのレベル別に見た骨粗しょう症の発症リスク(オッズ比)

今回の追跡調査で、新たに骨低下症および骨粗しょう症を発症していた閉経女性では、調査開始時における血中β-クリプトキサンチン濃度が、発症しなかった健康な被験者(平均値1.94μM)に対して、骨低下症では1.59μM、骨粗しょう症では1.16μMとなり、4年間で骨密度が低下した被験者ほど調査開始時の血中β-クリプトキサンチン濃度が統計的に有意に低かったことが判明した(画像3)。これらの結果より、血中のβ-クリプトキサンチン濃度が低いほど、骨粗しょう症を発症しやすいということが示唆された形である。

画像3は、追跡調査時における骨の状態別に見た調査開始時の血中β-クリプトキサンチン値。年齢、身長、体重、閉経後の年数、喫煙・飲酒・運動習慣、サプリメント使用状況および総摂取カロリーで調整した幾何平均値だ。*は、正常グループに対して危険率5%未満で有意(Bonferroni multiple comparison testにより検定)。傾向性は、多変量調整線形回帰分析により検定。

画像3。追跡調査時における骨の状態別に見た調査開始時の血中β-クリプトキサンチン値

今回調査した6種のカロテノイドの内、骨粗しょう症の発症リスク低減と有意な関連が認められたのはβ-クリプトキサンチンのみだった。一方、男性や閉経前の女性においてはこのような関連は見られなかった。

現在、国内における要介護に至る大きな要因の1つに、骨粗しょう症による骨折などが挙げられる。骨粗しょう症予防は将来的な要介護のリスクを低くし、健康寿命の延伸につながるという観点からも注目される成果といえるという。

β-クリプトキサンチンは閉経女性における健康な骨の維持・形成に対して有益である可能性が明らかにされたことから、研究グループは今後、ウンシュウミカンやβ-クリプトキサンチンの骨代謝に及ぼす作用を検討すると共に、そのメカニズムについても明らかにしていきたいと考えているとしている。