東京大学生産技術研究所(東大生産研)は、平面上に培養した細胞を、細胞の内部の力(牽引力)を用いて、折り紙のように折り曲げ、自動的に立体構造を作製する技術を開発したと発表した。

成果は、東大生産研の竹内昌治准教授、同・栗林香織特任研究員、同・尾上弘晃助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間12月12日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

細胞を立体的に培養し、3次元的な組織を人工的に構築する技術が、基礎研究のみならず、新薬の開発や次世代再生医療などの分野で重要とされている。研究グループは今回、MEMS技術を利用した微細加工技術を用いてマイクロプレートを作製し細胞を培養し、「折り紙のように折り畳む」という方法を用いて、高速に立体構造を構築する方法を確立した。

折り紙の折り畳み技術は、宇宙で展開する太陽パネルや、小さく折り畳まれ血管内で展開することができるステントといった医療器具などに応用され、「折り紙工学」分野として、国内外で盛んに研究が行われている。

折り方の組み合わせ次第で、平面の状態から自在に複雑な構造物を作ることできるのが特長だ。今回の研究では、細胞組織の立体構造構築に対して、この折り紙の折り畳み技術が利用された。折り畳みによる3次元生体組織によって、管や袋構造など中空構造を高速に作る方法はこれまでにはなく、世界初の技術となる。

まず、細胞サイズのプレートをMEMS技術によって平面上に複数個配置し、その上に細胞を培養。隣り合ったプレートにまたがって細胞が増殖すると、細胞内部の牽引力(内側に引き込む力)によって、2つのプレートの一方が引き寄せられ画像1のように立ち上がることが判明した。

今回の研究では、この原理を利用して、立方体や正十二面体、管構造などの多面体の展開図にあたるパターンをマイクロプレートで作製し、細胞培養後にそれらの牽引力によって望み通りの多面体構造をした細胞組織を作ることに成功した形だ(画像2)。また、心筋細胞などを利用すれば、自律的に駆動する多構造も作製できることを示すことに成功している。

画像1。細胞の折れ曲がりの原理

画像2。細胞の折りによる立体構造の構築の様子。細胞内部の力(牽引力)により自動的に折り畳まれる

今回の方法により、細胞に3次元的な変形力がかかったときに、細胞内部でどのような状態変化が起きるかなどを1細胞レベルで観察することができるほか、管や袋構造など、中空の細胞組織を高速に作る方法に応用が可能であり、新薬の開発や次世代の再生医療分野、細胞を使った医療器具への応用が期待できるとした。