カネボウ化粧品は12月4日、紫外線による皮膚の老化についての研究を進める中で、「光老化」による真皮組織変化の進行度(重症度)を評価する客観的な指標となる「光老化組織ステージ」を確立し、同ステージは、目視でのシワスコアと有意に相関することを確認したほか、指標作成の過程で、光老化の初期段階において真皮の深部でエラスチンの異常が生じることを明らかにしたと発表した。

同成果は同社価値創成研究所と東海大学 医学部皮膚科学・形成外科学・生体防御学らの研究グループによるもので、詳細は12月7~9日に開催される「日本研究皮膚科学会 第37回 年次学術大会・総会」で発表される予定だ。 老化には、生理的要因による「自然老化」に加え、環境要因による老化がある。中でも紫外線は、自然老化の進行を加速させ、より深刻なシミやシワを引きおこすなど、皮膚に大きな影響を及ぼすため、紫外線を長期間浴びることにより進行する老化は、自然老化とは区別され"光老化"と呼ばれる。

この光老化では主にシミが増えて肌の色がくすんだり、弾力性やハリが低下して深いシワが形成されることとなる。このとき、特に皮膚内部の真皮ではコラーゲンやエラスチンの変質といった顕著なダメージが生じていることはすでに知られているが、ダメージが真皮のどこで生じるのか、その変化がどのように進行するのかについては解明されていなかった。

今回、研究グループでは、紫外線による皮膚への影響と真皮組織変化との関係性を調べるため、各組織の段階的変化を示す指標の作成に着手した。

具体的には、真皮の構成要素であるエラスチン、コラーゲン、デコリン (コラーゲンの線維の太さやコラーゲン同士の間隔を調節する分子)を同時に評価。この結果、これら真皮細胞外マトリクスの変質具合を6つの段階に分類できることが確認された。研究グループではこれを"光老化組織ステージ"と名づけ、光老化による真皮組織変化の進行度(重症度)を表す指標として確立。これにより、紫外線を浴びることで起こる真皮細胞外マトリクスの変化を客観的に評価できるようした。

光老化の初期段階において真皮深部でエラスチンの変質が起こることを確認

また、光老化組織ステージを確立する過程で、真皮の組織変化がどこから生じるかを調べたところ、光老化皮膚では初期の段階において真皮深部でエラスチンの変質が生じていることを、ビジュアルで確認することに成功したという。地上に到達する紫外線には波長の長さによりUVA、UVBなどと分けられるが、真皮の深部に到達しやすいのは波長の長いUVAであり、光老化の発生にはこのUVAが影響していることが示唆されたことから、美しい肌を保つにはUVBだけでなくUVAを防ぐことも重要であることが改めて確認されたこととなった。

光老化組織ステージの進行とともにシワが顕著になる

さらに、光老化組織ステージと皮膚の見た目との関係を調べるため、女性26名を対象に解析を行ったところ、光老化組織ステージとシワスコアに相関性が認められ、光老化組織ステージが進行している皮膚では、目尻のシワスコア(シワの明瞭さ、深さ)が高いことが明らかとなった。この結果、コラーゲンやエラスチン、デコリンなどの変質が、シワの形成と深くかかわっていることが確認されることとなった。

加えて、光老化皮膚のメカニズム解明を目的として、ヒト皮膚を用いて紫外線の影響を大きく受ける因子を探索した結果、光老化皮膚にコラーゲンの形成を促進するタンパク質の1つ「COMP(cartilage oligomeric matrix protein)」を発見。光老化組織ステージを応用して解析したところ、CMOPが特に光老化の進行した皮膚で出現していることが明らかとなったほか、この出現メカニズムを探るために真皮線維芽細胞に紫外線を照射したところ、UVBではなくUVAによってその合成量が高まることも併せて確認したという。

光老化皮膚におけるCOMPの分布

UVA照射によるCOMPmRNAの増加

なお研究グループでは今後、CMOPがUVAによって進行する光老化ダメージを識別するマーカーとして活用できる可能性があるため引き続き研究を行っていくとするほか、今回得られた知見をもとに、光老化皮膚の形成メカニズムの解明やUVAを効果的に防ぐ商品などの開発を進めていく計画としている。