Intel MuseumでIntelの歴史を学ぶ

シリコンバレーへの出張で、相手の都合で午前と午後の会議の間が空いたりしてしまうことがある。そんな時、1時間(+行き帰りの往復時間)、余裕があったらIntel Museum(インテル博物館)に行ってみよう。うるさい上司でも、Intelの博物館の見学に行ったと言えば、文句は言われないであろう。

インテル博物館は2200 Mission College Blvd、Santa Clara、CA 95054のIntelの本社の中にあり、その本社の敷地の中に合法的に足を踏み入れることができる。

Intel本社のゲート。Intelマークの下の青地のところに2200 Mission College Blvdの住所が書かれている

そして、Intel博物館は、同社の創立者の1人であるRobert N. Noyce氏の名前を冠したビルの1階にある。開館は、月曜から金曜までは午前9時から午後6時、土曜は午前10時から午後5時までで、日曜や祝日は休館である。なお、入館料は無料である。

Robert N. Noyceビルディング。青いIntelマークの左に見えるドアがIntel博物館の入り口

この博物館は比較的こぢんまりした博物館で、1時間あれば十分に見られるし、時間が無ければ30分でもざっと見ることができる。展示は、大きく分けて、Intelの歴史に関するものと、Intelがどうやってマイクロプロセサなどのチップを作っているかに関するものがある。また、ビルに名前が冠されているノイス氏の業績を示すコーナーやGordon Moore氏とムーアの法則を説明するパネルなどがある。

Intelのマイクロプロセサの歴史は、1971年に発売した4ビットのMCS4がその端緒である。元々は日本のビジコムという会社が、電卓用のLSIの設計図を持ってIntelに行き、製造を依頼したのであるが、Intel側の担当者となったHoff氏は汎用の4ビットプロセサを作るという案を出し、ビジコム案とやりあい、結局、Intel案の4bitプロセサが採用された。このLSIはビジコムが開発費を出した特注品で、Intelは一般に販売する権利を持っていなかったのであるが、ビジコムがシャープやカシオとの競争上、LSIの値下げを要求し、Intelはその対価として外販権を得て、1971年にMCS4という名称で発表した。なお、このプロセサはCPU、RAM、ROMなど4種類のチップで構成され、その中のCPUチップに4004というナンバーが付けられていた。

右がビジコムのプリンタ付電卓。左のアクリルの角柱に4004プロセサLSIが入っている

実はIntelは、メモリを作る会社として創業され、最初の製品は3101という64ビットのバイポーラSRAMであるが、 1970年に出した1101というMOSのSRAMでその名を知られるようになった。また、ほぼ同時期に1103という1024bitのDRAMを作り、これが多くのコンピュータメーカーに採用され、Intelの基盤を築いた。なお、この1103は世界で最初に製品化されたDRAMである。

左がIntelのほぼ最初の製品「1101」、右がDRAM「1103」を搭載したメモリボード

なお、1970年代のIntelはDRAMの主要メーカーであったが、その後、日本のメーカーに押されてDRAMからは撤退してしまった。

また、Intelは1972年にMicromaという時計会社を買収した。デジタル時計の出現の初期はLEDの7セグメントのディスプレイしかなく、電池を喰うので連続表示は出来ず、時刻を読む時はボタンを押してLEDを点灯するというものであった。しかし、Microma社は液晶技術を開発し、常時表示ができる時計を作ることができた。

Intelが製造していたMicromaブランドの腕時計

買収後、IntelのMOS技術で消費電力を減らし、バッテリを小型化して、小型の女性用を含むいろいろなデザインの腕時計を作って、結構売れたのであるが、1976年頃には競争が激化して儲からなくなり、MicromaをTimexに売却して腕時計からは撤退している。

ということで、SRAM、DRAMも腕時計も撤退してしまった、いわば、失敗の歴史であるが、これが展示されているのが面白い。いろんな人と話をしても、Intelが腕時計を作っていたという話は聞いたことが無いという人ばかりで、私の記憶を確認するためMicromaの腕時計をもう一度見たいと思っていたのが叶って、ちょっと感激であった。

一方、マイクロプロセサの歴史は大成功で、当初の4004と8bitの8008は他社からの受託開発であったが、その経験を生かして開発した8ビットの8080というプロセサは、大幅に使い勝手が改善されており、これを使ったパーソナルコンピュータが多く出現した。その初期のものがAltair 8800である。

8bitパーソナルコンピュータ「Altair 8800」。右側のS100バスのCPUボードが展示されている

良く知られているように、その後、16bitの8086/8088を開発し、8088がIBM PCに採用された。IBM PCとその互換機の大成功で、8086/8088も大成功を納め、80186、80286、80386、80486、Pentiumと次々に時代をリードするマイクロプロセサを商品化してIntelを発展させてきた。

Intelの歴代のCPUの展示

各展示には、英語であるが、説明のスライドやオーディオもあり、Intelの歴史を学ぶことが出来るようになっている。