クリエイション現場において、大容量のデータのやり取りは日々発生するもの。扱うデータの容量も年々重くなってきており、スムースなデータのやり取りは、プロジェクトの進行や完成形に大きな影響を及ぼすといえる。本企画では、そんなデータのやり取りに、シーイーシーの販売するクラウドストレージサービス「Webhard」を導入しているクリエイターに話を伺っていく。第2回では膨大な数のテレビドキュメンタリー作品を制作し、劇場用映画/ドキュメンタリー映画の監督としても活躍する映像作家 坂口香津美氏が登場。

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坂口香津美
1955年 鹿児島県出身。家族や若者をテーマに、約200本ものTVドキュメンタリー番組を監督する。近作に『NNNドキュメント08 血をこえて ~我が子になったきみへ』(ギャラクシー賞08年7月度月間賞受賞)、『NNNドキュメント10 かりんの家 ~親と暮らせない子どもたち』など。『青の塔』、『カタルシス』、『ネムリユスリカ』の3本の劇映画では、ひきこもり、少年犯罪、性犯罪被害者などを題材に、重厚な作品世界を構築した。最新作は長崎の被爆者が暮らす養護老人ホームをテーマにしたドキュメンタリー映画『夏の祈り』

フィクションからドキュメンタリーまで、様々な映像の撮影から編集までをこなす坂口氏。日々どれぐらいの映像データをやりとりしているのだろうか。

「最低でも1日に数回は仕事相手と映像データのやり取りをしていますね。容量の大きなデータをやり取りするときは、ハードディスクをバイク便で送ったりすることも多いのですが、ここ数年はファイル便でやり取りをすることが増えてきました。僕の場合、最終的な映像本編をHD CAMに落とすというようなときは、ハードディスクを使っているのですが、途中の確認作業などは、Web上でのやり取りが多いですね。比率としては9割くらいがWeb上でのやり取りです」

データのやり取りや確認に、これまで無料のファイル便やYoutubeを利用することが多かったという坂口氏だが、Webhardを導入してから、その利便性の高さに驚いているという。

「Webhardを最初に使ってみた印象としては、データのアップロードなどがスムースで早いということです。あと、無料のサービスの場合、データの長期保存ができないのですが、Webhardの場合は、映像データを"長期間保管しておける場所"という、もうひとつのハードディスクのようなイメージで利用できることも便利ですね。セキュリティに関してもしっかりしているので安心ですし」

坂口氏の最新劇場公開作品である『夏の祈り』において、Youtubeなどに公開しているPR映像は、すべてWebhardでやり取りして制作したという。その過程での印象を、坂口氏はこう語る。

「Webhardでは、制作に関するメモをファイルに書き込むことができるのですが、これがとても便利なんです。ドキュメンタリーでも劇映画でも、ひとつの映像を複数の関係者に同時にチェックしてもらうというシチュエーションが多いのですが、これまでは、個別にメールでお伝えしたり、映像を送ることが多かったのです。Webhardを使った場合、そういった手間を省くことができるので、楽に進行できますし、本業のプロダクト制作に集中する事ができます。また、僕の場合、同時に4つぐらいのプロジェクトが進行していることがあるので、プロジェクトごとにフォルダ分けして、活用しています」

また、コスト面でもWebhardは魅力的だと坂口氏は語る。

「テレビ番組のような多くの人間が関わる映像プロジェクトの場合、利用人数によって価格が変動しないWebhardのメリットは大きいと思います。これまで無料のサービスを使っていましたが、スピードや使い勝手の点、また無料のサービスの場合はダウンロードページなどに広告が掲出されるので、クライアントへの印象が良くないという点もあり、有料のサービス利用を検討しはじめました。しかし実際に検討し始めてみると、コストの面もありますが、工数の面が大きなネックになるのです。我々のような業種の場合、プロジェクト毎に関わる人数や、並行するプロジェクトの数が非常に流動的です。そのため、毎回人数ごとにライセンスを導入するのは、とても非効率なんですよ。そういったことからも容量課金のWebhardを見つけた時は、これだ、と思いました」

坂口氏によると、Webhard導入によって実務的なメリットだけでなく、心情的に良い部分も増えたという。

「関係者に映像チェックをメールで依頼しても、反応がないことも多々あります。送った映像を実際に先方がチェックしてくれたのかどうかで、仕事の段取りが大きく変わってくるので、しつこく催促しなければならないケースがあるんです。しかし、あまり親しくない仕事相手の場合、それもやりにくいですよね。Webhardなら、映像を確認したかどうかをクラウド上で確認できるので、精神衛生上も良いと思います」

スマートフォンなどのデバイスに対応しているWebhardの身軽さも、ドキュメンタリー作家にとっては魅力的なようだ。

「WebhardはAndroid携帯でも使えるので、ロケハン時にも活用できそうですね。ロケハンのときiPhoneで撮影した映像や画像を、その場でアップロードして、スタッフにチェックしてもらうなんてこともできそうです。今はまだそこまで使いこなせていませんが、今後は活用していきたいですね」

※iPhone/iPad用アプリは近日中リリース予定

映像作家ゆえ、Webhardをさらに拡張して使うことも坂口氏は検討している。

「通常、1ファイルあたりの容量が2ギガバイトまでなので、どうしてもデータを分割しなければならないときもあり、容量に不満を感じるときもあります。今後は、専用のアプリを入れて、10ギガバイトまで拡張して使いたいと思っています」

※Win/Macで専用アプリを使うか、IEで専用ActiveXコントロールを入れた場合やFFやChromeで専用AIRアプリを入れた状態であれば1ファイル最大10GBのアップロード、ダウンロードが可能

Webhardを導入した坂口氏だが、現在はどんなプロジェクトに取り組んでいるのだろうか。

「2012年8月から公開しているドキュメンタリー映画『夏の祈り』が、おかげさまで未だにロングラン上映中で、公開劇場も徐々に増えています。最初の公開劇場数は2館のみでしたが、"学校やホールで上映して欲しい"という要望が増えているので、劇場公開が終了した地域では、そういった形での上映機会も増えていくと思います。この作品に関しては、小さいのですが、熱いリアクションをいただいているという印象ですね。これからの、新作としては、東日本大震災の被災地を舞台にした『シロナガスクジラに捧げるバレエ』という作品をクラウドファンディングを使って制作予定です(12月上旬よりMotionGallelyに掲載予定)。震災前、ドキュメンタリーの取材で何度か東松島の私塾を訪れました。そこは事情があって家族と暮らせない子供たちが暮らしている場所なのですが、そこの子供たちが、津波のときに何人もの人を救助したという話を訊いたのです。その話に感銘をうけて、フィクションとして仕上げたいと思ったんです。2014年の公開を目標にして、来年撮影に入る予定です。あとは、ここ3年間、自分の母親を介護しながら、その様子を撮影しているのですが、それもドキュメンタリー作品としてまとめられればと考えています」

まとめ

Webhard導入前の課題 Webhard導入効果
プロジェクト毎に関わる人数や、並行するプロジェクトの数が大きく変動するため、人数に応じて金額が変動するサービスは使いづらい 容量課金制のため、プロジェクトや人数の変動にも柔軟に対応できる
関係者同士での映像チェックが困難。映像を確認したかを知る術がなく、製作進行に支障が出る 映像を確認したかどうかをクラウド上で確認できるため、製作進行がスムースになる

撮影:伊藤圭