MathWorks Japanは10月30日、都内で同社のプライベートカンファレンス「MATLAB EXPO 2012」を開催、同カンファレンスに併せて9月にリリースされたばかりのMATLAB/Simulinkの最新バージョン「リリース2012b(R2012b)」の機能概要などの説明をプレス向けに行った。

MathWorksのDiector-Consulting ServicesであるPaul Smith氏

SimulinkのR2012bについて、MathWorksのDiector-Consulting ServicesであるPaul Smith氏は「Simulinkがリリースされて以降、最大のアップデートが行われた」と語る。その背景として、同氏は「Simulinkのユーザーは大規模システムを作る必要に迫られるようになってきた。また、モデルベースを活用するエンジニアが世界各地に散らばっており、彼らがその設計を完成させていくためには、さまざまな情報をシームレスに調べられる必要がある」と、機器の高性能化や複雑化が進んだ結果、設計関与するエンジニアの数が膨大になり、自分がどの部分を開発しているのかなどが見えなくなってきており、そうした問題を解決する必要が生じていたことを指摘する。

GMの場合、ソフトウェアの開発は全世界16拠点で行われており、それぞれがパワートレインやシャシー、エアコンなどを担当して行っているという。この結果、数百万のブロックで構成されることとなり、それぞれの担当するエンジニアは自分がどこのどういったものを開発しているのかが非常にわかりづらくなってしまっているという

具体的には「Explorer Bar」により、タブでモデルウィンドウやモデル階層を操作することができるようになった。これにより、従来のように、何枚ものウィンドウが表示され、どのウィンドウがどの階層なのかわかりづらくなる、といったことが解消できるようになった。

また、「開発規模が大きくなるとデザインのスペックやコードなどをOEMベンダとサプライヤ間、コントラクタとサブコンの間などで見ていく必要があり、それらを効率よく読み込むことも重要」とのことで、そうした課題に対応するための機能や、自動的に不要な配線などを排し、効率のよい配線を見つけてくれる「Smart Signal Routing」、モデルのシミュレーションを実行する前からコンフリクトの発生などを検知できる「New Srateflow Editor」などの機能が搭載された。

タブ形式にすることで、解像度のそれほど大きくないモニタで作業をしても、ウィンドウを開きすぎて混乱することがなくなるという(複数枚のモニタを使用している人では意味がなくなるのか、というと、従来同様の方式も選択的に利用することが可能だとのことであった)。また、自動で配線最適化をしてくれたり、シミュレーション実行前から生じるであろうエラーを知ることができるようになったため、作業効率を向上させることが可能となった

わかりづらいが左が従来のSimulinkの画面。ウィンドウが複数枚出ている。右がR2012bの画面。タブにより、複数枚のウィンドウを表示することなく、タブの切り替えだけで済むようになった

さらに、「Simulation Stepper with Breakpoints」により、シミュレーションを好きなポイントから実行できるようになった。これにより、最初から最後まで非常に長いシミュレーションで、途中でエラーが生じて止まってしまった場合などでも、最初からやり直さずに、特定部分だけを指定してシミュレーションしなおしたりすることができるようになった。

加えて、モデルベース中のファイルをよりよく活用できることを目指し、自分のチームに属しているファイルだけを見つけたり、プロジェクトをイニシャライズしたりシャットダウンしたり、新しく改訂されたファイルをラベリングして、見ることなどが可能となった。

このほか、Arduino、LEGO MINDSTORMS NXT、BeagleBoard、PandaBoardなどを簡単に使用できるようにモデルの実行がサポートされており、これにより、安価なハードウェアを用いて、学生などがハードウェアとソフトウェアを連携させた活用などがしやすくなるとする。

一方のMATLABでは、デスクトップのルックアップフィールドが新しくされた。これは「常に新しい機能を追加しているものの、機能が多くなりすぎ、ユーザーはなかなかそれを見つけることができない状況に陥りやすくなってしまった」とのことで、ユーザー自身が見つけたい機能を簡単に見つけられるような機能が追加された。

例えば「Toolstrip」により、よく使う機能を使いやすい場所に設置したりすることなどが可能となったほか、自由にファイルのインポートも可能となり、数字やテキスト、日付などが複数入っているデータも簡単に作ることができるようになったという。

Toolstripによりデータに対する最適なプロットタイプの選択などがしやすくなった

また、インタラクティブツールやフィルタのデザインや分析、PIDコントローラのチューニングといったこれまで関数をコマンドラインに打ち込んでGUIを呼び出す必要があったが、「MATLAB Apps」の活用により、そうした関数を知らなくてもアイコンとその説明文を見てクリックするだけで、求めるGUIを呼び出すことが可能となった。

関数を知らなくてもアイコンをクリックするだけで、目的のGUIを表示することが可能となった

さらに、ユーザー自らアプリケーションを作る人たち向けにそれらをパッケージ化して、1つのファイルとして共有することを可能としたほか、Webなどからそういうアプリケーションを入手することなども可能とした。

加えて、「Documentation Center」として、オンラインサーチ機能などを向上。これにより、ある結果をフィルタリングしたいというカテゴリサーチや、あるトピックの機能や例、コンセプトなどを1ページに収めることが可能となった。

こうした複数の情報を1つにまとめるといった機能は従来はPLMなどの分野が担当していたものだが、「複数のツールを使うよりも、1つのツールでカバーできれば、ユーザビリティが向上することとなる」ということで、そうした分野もカバーを進めていくとするほか、「我々はMATLAB/Simulinkを世の中に広く使ってもらいたいと考えている。そのためにはツールを簡単に使ってもらう必要があり、今回、全面的にユーザーインタフェースの改良に踏み切った。今後も、そうしたユーザーの使い勝手の向上に向けた開発は継続していく」としており、そうした新たなユーザビリティの向上を実現する機能などについても、十分な性能を提供でき、ユーザーニーズに見合うと判断したものから順次リリースしていくとした。