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新たに暗号化やセキュリティ関係の6種のアクセラレータを搭載

そして、POWER7+では、新たに、暗号化やセキュリティ関係の6種のアクセラレータを搭載した。これらのアクセラレータはメモリにつながる形になっており、プロセサからのコマンドにしたがって、DMAでメモリから入力データを読み、処理結果をDMAでメモリに書き込むという動作を行う。小回りは効きにくいが、大量のデータをプロセサに負荷をかけることなくストリーム的の処理するには適した方式である。

842と書かれたアクセラレータは、IBM独自のアルゴリズムでメモリの圧縮、伸長を行うとのことであるが、詳細は不明である。

POWER7+は6種のアクセラレータを搭載(この図を含め、以降の図は、Hot Chips 24でのIBMの発表資料の抜粋である)

POWER7では、アイドル時には、コア単位でクロックを止めるNap(うたた寝)とコアとL2キャッシュのクロックを止め、電圧をデータ保持の最低レベルに下げるSleep(睡眠)モードを持っていた。POWER7+では、SleepがL2キャッシュの内容を無効化してコアとL2キャッシュの電源をオフにするDeep Sleep(熟睡)となった。POWER7のSleepでは1msで動作に復帰できるものの、アイドル電力の35%しか節約できていなかったのであるが、POWER7+のDeep Sleepでは復帰には4.5msかかるが、85%のアイドル電力が削減できる。

そして、POWER7+ではWinkleというモードが追加された。これは森でちょっと寝込んで起きたら20年経っていたというRip van Winkleにちなんだ命名である。Winkleではコアに対応するL3キャッシュのスライスも情報を追い出して、電源をオフにする。これにより、アイドル電力の95%以上を削減できるという。ただし、起きるまでの時間は20年ではなく、7msである。

POWER7+ではSleepモードの電力の削減と、新たに大幅に電力を減らすWinkleモードを設けた

また、POWER7+では各コアスライスの中に5カ所のCPM(Critical Path Monitor)を設けている。チップがどれだけのクロック速度で動作できるかは、クロックを決める信号経路(クリティカルバス)のトランジスタの出来、電源電圧、温度などに依存する。POWER7+では本当のクリティカルパスと類似の回路を近傍に配置し、電圧や温度もほぼ同じという条件で動作させている。そして、それぞれのCMPの遅延時間がクロック周期に対してどの程度余裕があるかをモニタし、すべてのCPMで一定以上の余裕があればクロックを上げ、余裕が規定以下ならクロックを下げるという制御を行う。

チップのクロックを決めるパスの近傍にクリティカルパスモニタを設けている

チップの温度から、電力の上限を超えないようにクロック周波数を制御するのは一般的であるが、その時、そのクロック周波数で確実に動作するよう、電源電圧には余裕を持たせて高めに設定する必要がある。しかし、チップの実力とCPMの誤差は小さいので、持たせる余裕を減らして、電源電圧を下げる(あるいは同じ電源電圧でクロックを上げる)ことがき、結果として低電力化(あるいは性能向上)ができる。

このようにPOWER7+は新機能満載というチップではないが、おそらくは、非常に限られた開発期間で実現可能な改善策を集めて、開発エンジニアの努力でそれなりに形をつけたチップという印象である。

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