第1章 Windows 8への道 - Windows 1.0からWindows 8まで その1

2012年10月26日、Windows 8のGA版(General Availability version:一般提供版)の販売が始まった。同OSは1985年に登場したWindows 1.0から数えて13番目のOSとなる。ただし、内部バージョンは6.2であり、前バージョンとなるWindows 7の内部バージョンが6.1であることを踏まえると、マイナーアップデート版と評すべきだろう。まずはWindows OSの歴史を駆け足で追いかける。少しの間お付き合いいただきたい(図001)。

図001 Windows OSの歴史(英語版をベースに作成)

最初のバージョンとなるWindows 1.0がリリースされたのは、1985年11月の話。MS-DOS全盛期の1980年代にパロアルト研究所で開発されていたAlto(アルト)やGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)に影響され、Windows OSの祖となるInterface Manage(インタフェースマネージャー)を生み出した。もっとも、Interface ManageはMS-DOSにGUI機能を追加させるのが主目的であり、OSという観点から見ると、MS-DOSから脱していなかった。

MicrosoftがWindows OSの開発に着手したのは、Personal Software(後にVisiCorpへ社名変更)が開発したMS-DOS上で動作するVisiOn(ビジオン)の影響が大きいと言われている。MS-DOS上にGUI環境を追加するVisiOnも、前述したAltoの影響を受けたソフトウェアの一つであり、当時VisiOnのデモを目にした人々はパーソナルコンピューターではなく、ビジネス向けの高価なミニコンピューターで実行されているのでは、と疑ったそうだ。この時点でVisiOnは発売されておらず、奮起したMicrosoftが世に送り出したのが、Windows 1.0である(図002)。

図002 Windows 1.01。MS-DOS向けGUIランチャーとしての色合いが強かった

続くWindows 2.0が登場したのは、二年後の1987年。ウィンドウの重ね合わせを行うカスケードウィンドウシステムを搭載し、GUI採用OSとして少しずつ機能を充実させていった。だが、Windows 2.xにおける最大の特徴は、アプリケーション間通信に用いられるDDE(Dynamic Data Exchange)をサポートした点だろう。後にオブジェクトのやり取りを行うOLE(Object Linking and Embedding)や、ソフトウェアの再利用に用いるCOM(Component Object Model)の基盤となった技術。この基礎概念はWindows 9x時代まで実装され、拡張子の関連付けなど各所に用いられていた(図003)。

図003 Windows 2.03。カスケードウィンドウシステムを新たにサポート

メモリ管理についてはIntel 80386で動作するWindows 2.0/386という存在もあったが、これらの機能は1990年に登場したWindows 3.0に引き継がれている。VisiOnに影響を受けたMicrosoft開発陣が、曖昧ながらも既に描いていたGUIが完成したのだ。ハードウェアの性能向上により、ノンプリエンプティブ・マルチタスク(タスク側はOSに処理を返すことで実現するマルチタスク。疑似マルチタスクとも呼ばれる)を実現し、複数のアプリケーションを併用する現在のようなスタイルを確立した。

MS-DOSという過去の資産をベースに動作するWindows OSだが、描画技術であるGDI(Graphic Device Interface)を実装し、ハードウェアの抽象化も推し進められるようになったのはこの頃である。そのため開発者はAPI(Application Programming Interface:簡潔にプログラムを記述するためのインタフェース)に沿った設計を行えば済むようになり、ソフトウェアの開発速度を加速させると同時にWindows 3.0の普及を推し進める要因となった。なお、最終的には全世界で300万本以上を売り上げたことを踏まえれば、このWindows 3.0が最初に成功したWindows OSであることは確かだろう(図004)。

図004 Windows 3.0。「プログラムマネージャ」を搭載し、各アプリケーションの起動に用いられていた

1992年には、Windows 3.0をベースに大幅な改良を加えたWindows 3.1が登場している。メモリやフォントシステムの強化などを行いつつも、古いプロセッサの切り捨ても実施された。ちなみに英語版では8086プロセッサにとどまっていたが、Windows 3.1日本語版では80286プロセッサのスタンダードモードも切り捨てられている。これらのドラスティックな変革を加えることで、OSとしての安定化を高めたWindows 3.1は日本国内だけでも400万本以上出荷されている(図005)。

図005 Windows 3.1日本語版。英語版はネットワーク機能を備えた「Windows for Workgroup 3.11」もリリースされた