第3章 Windows 8のUI/UX - 廃止されたAero Glassと新デザイン

それではWindows 8の各機能に関して解説していこう。Windows 8を目にした多くのユーザーが最初に気にするのが、Microsoft Designと呼ばれた"新しいスタート画面"だろう。Windows 8はこれまでのWindows OSと異なり、デスクトップ/ノート型コンピューターだけでなく、キーボードレスのタブレット型コンピューターでの稼働を前提とした設計になっている。そのため、マウスやキーボードといった従来の入力デバイスではなく、直接ディスプレイに触れるタッチデバイスを全体としたUIが各所に導入された。

第一章と内容が重複してしまうが、まずはデザイン面から注目してみよう。Windows Vistaから新しいUIとしてWindows Aeroが導入されたのは記憶に新しいが、特徴的なのはウィンドフレームなどに半透明化処理を加える、Windows Glassという機能。当時のコンシューマー向けOSをお使いの方なら覚えておられるとおり、ウィンドウを半透明に描画するソフトウェアが多く公開されていた。筆者もLinuxなどに接続する端末ソフトを半透明化し、使っていた記憶がある。

"猫も杓子も"ではないが、コンピューターの性能が高まった結果、半透明化に代表されるビジュアル面の強化が求められていた。その結果がGPU(Graphics Processing Unit)を活用し、UIをリッチ化したのがWindows Aeroだ。前述した透明化やライブサムネイル、ライブアイコンといった機能を備えている。だが、Aero Glassは高機能化しつつも動画再生やPCゲームでしか活用されなかったGPUを有効活用すると同時に、「視線の動きを記録する装置を付けてWindows XPを使わせると、ウィンドウフレームが原色の場合はフレームに視線が動いてしまうため、作業効率が落ちてしまう。一方ウィンドウフレームを半透明化すると作業効率が数十パーセント向上した」というMicrosoftの調査結果を元に導入された機能の一つ。

確かに目新しいものだったが、Windows XPを前提に設計された廃熱能力の乏しいノート型コンピューターでは、GPUの温度が急上昇し、機体によってはパームレストが熱くて実用にならないというマシンも存在したほどだ。話をAero Glassに戻そう。基本的にWindows 8でもWindows Aeroは踏襲されている。もちろんいくつかの改善が加わっているが、もっとも大きな特徴はAero Glassを廃止し、真四角なウィンドウデザインに変更されている点だ(図137)。

図137 Windows 8のデスクトップ。エクスプローラー周辺の背景画像がウィンドウフレームによって消されており、透明化処理が行われていないことがわかる

この変更に対してWindows UXチームディレクターのJensen Harris(ジェンセン・ハリス)氏は「Windows 8のデスクトップをMicrosoft Designスタイルの美意識に近づけることに決めた」と述べているが、各所の立体感をなくし、平面的な印象を受ける新しいデザインの採用は賛否両論があるだろう。同氏は「今となっては時代遅れで安っぽく見えるが、当時は大流行していた」と振り返りつつも、どこぞの政治家がうたっていたように"改革には痛みを伴う"のは事実である。

個人的にウィンドウタイトルは必要だとは思いつつも、左右および下側のウィンドウフレームを残すべき理由があったのだろうか、と疑問に感じてしまう。再び図137を見てほしい。ライブサムネイルもAero Glassを廃したことでフレーム部分が邪魔に感じないだろうか。もっとも同社は「Aero Glassを廃した」とは一言も述べていない。

その証拠ではないが、ウィンドウフレームの透過処理は廃しながらも、タスクバーには透過処理がそのまま残されている。しかし、「ウィンドウの色とデザイン」にあった「透明感を有効にする」という項目は廃され、ユーザーが透過処理に関して行うアプローチは現時点で見つかっていない(図138~139)。

図138 Windows Glassは廃しているタスクバーの透過処理は残されている

図139 Windows 7にあった「透明感を有効にする」という項目はなくなっている

Windows 8のUIデザインは、透過処理を部分的に廃したことで、Windows XP風デザインに戻りつつも、Metro UIのエッセンスを加えた新しいものとなっている。デザインセンスを持たない筆者が、その優劣を判断するのは難しいものの、これまでWindows VistaもしくはWindows 7を使ってきたユーザーが、Windows 8の新UIデザインに慣れるまでには時間を要しそうだ。