気象庁は10月15日、2012年9月の世界の平均気温が、統計を開始した1891年以降の122年間で第1位(これまでの第1位は2009年)の高い記録となったことを発表した。

2012年9月の世界の平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の偏差(速報値)は+0.24℃と、9月の気温としては、統計を開始した1891年以降の122年間で第1位(これまでの第1位は2009年の+0.22℃)の高い値となった(画像1)。

なお、偏差とは平均気温から基準値(1981~2010年の30年間の9月の平均)を差し引いた値のことで、速報値とは2012年10月14日までに気象庁に入電したデータをもとにした解析値のことである。

画像1。9月の世界の月平均気温の偏差の経年変化(1891~2012年)。細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均、直線(赤):長期的な変化傾向。基準値は1981~2010年の30年平均値

9月の平均気温が高かった地域は、陸域では日本付近のほかシベリア、ヨーロッパ東部、北米西部、南米南部、海域では太平洋の熱帯域や北西部、インド洋、北大西洋などだ(画像2)。最近の世界の異常気象や気象災害の状況については、気象庁のWebサイト内の「世界の異常気象」が詳しい。

画像2。2012年9月の月平均気温偏差の分布図。各観測点の偏差を緯度、経度5度の領域ごとに平均した値で示したものだ

これらの陸域で気温が高かった要因として、高気圧に覆われて晴れたことや暖気の流入などの影響、太平洋熱帯域の海面水温が高かった要因として、今年の夏に発生したエルニーニョ現象の影響などが考えられるという。

長期的には、9月の世界の平均気温は100年あたり0.60℃の割合で上昇しており、近年は高温の月が現れやすくなっている。その要因としては、CO2などの温室効果ガスの大気中濃度の増加に伴う地球温暖化や、10年~数10年程度の時間規模で繰り返される自然変動が重なっているものと考えられるとした(画像3)。

2012年9月の世界の平均気温が高くなった理由のすべてが温暖化に帰するわけではないようだが、影響は大きいようだ。

画像3。9月の日本の月平均気温の偏差の経年変化(1898~2012年)。細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均、直線(赤):長期的な変化傾向。基準値は1981~2010年の30年平均値

なお9月の日本の平均気温の偏差は、+1.92℃で、こちらも第1位だった。長期的には、100年あたり+1.15℃の割合で上昇している(画像4)。日本の9月の天気は、太平洋高気圧の勢力が日本の東海上で非常に強まり、北・東日本は厳しい残暑となった(画像5・6)。

画像4。9月の世界および日本の月平均気温の順位

画像5。平成24年7月1日~9月18日の地域平均気温平年差(℃)の推移。5日移動平均した値。

画像6。1961年以降の各年の8月3日~9月18日における札幌の5日移動平均気温(℃)の推移。日平均気温平年値が最も高い日の値を示す。平年値は1981~2010年の平均値

北日本の旬平均気温は、8月下旬から9月中旬までの3旬続けて、統計を開始した1961年以降で最も高くなった(画像7)。東日本の旬平均気温は、8月下旬と9月上旬が1961年以降で第2位、9月中旬は第1位(タイ)となった(画像8)。

画像7。北日本の旬平均気温平年差(℃)の高温の記録(8月下旬~9月中旬)。統計開始年は1961年。平年値は1981~2010年の平均値。赤字は今年(2012年)の記録を示す

画像8。東日本の旬平均気温平年差(℃)の高温の記録(8月下旬~9月中旬)。統計開始年は1961年。平年値は1981~2010年の平均値。赤字は今年(2012年)の記録を示す

8月下旬~9月中旬の期間、日本付近の上空では北東海上を中心に偏西風が大きく北に蛇行した。これに関連して、日本の東海上で太平洋高気圧の勢力が非常に強まると共に、北・東日本に張り出したのである。高気圧の張り出しに伴って南から暖かい空気が流れ込んだことや、高気圧に覆われて晴れたことなどにより気温がかなり高くなったというわけだ。

なお、日本付近の偏西風の北への蛇行の理由としては、アラビア海からベンガル湾にかけてとその周辺域でモンスーンに伴う積雲対流活動が活発だったことが一因と考えられている。

また8月下旬と9月中旬は、偏西風の北への蛇行に加えて、フィリピン北東海上の活発な対流活動や沖縄・東シナ海を北上した台風(第14号~第16号)の影響により、北・東日本で高気圧が非常に強まったことも影響しているそうだ(画像9)。

画像9。平成24年8月下旬~9月中旬の大気の流れの特徴(模式図)

今後の見通しとしては、日本の東海上の太平洋高気圧は南東に退き、日本付近は、移動性の高気圧と低気圧が周期的に通過するようになる予想となっている。このため北日本では、平年の盛夏期の気温を上回るような極端に気温の高い状態は収まる見込みだ。ただし、今後2週間程度は、平年と比べると気温の高い日が多く、特に向こう1週間はかなり高い状態が続く見込みである。

なお同分析にあたっては、気象庁が平成19年6月に設置した異常気象分析検討会委員の協力を得て行われたということだ。同委員会は、社会経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、大学・研究機関などの専門家の協力を得て、異常気象に関する最新の科学的知見に基づく分析検討を行い、その発生要因などに関する見解を迅速に発表することを目的とする組織である。