リファレンスを活用することでスマートメータを簡単に構築可能

東日本大震災以降、大きく変化した日本の電力事情。電力会社各社は夏場の間、各担当地域にて総発電力に対してどの程度の電力が消費されるかの予想(でんき予報)を出していた。2012年の8月の場合、ピーク時の予測は各社ともに90%を超す日もあり、実際の消費電力がそれに追いつこうかという日も多々見受けられたほか、東北電力や北海道電力管内では冬場の方が電力需要が大きく、余談を許さない状況が続くこととなる。

また2012年9月1日より、東京電力(東電)管内では家庭向け電気料金の値上げがなされた。この値上げ率は2013年の4月以降に新潟県の柏崎刈羽原子力発電所(原発)が順次再稼働することを前提(7基中、最大4基の再稼働を計画)としたもので、もし再稼働ができなければさらなる値上げになるとの試算を東電は2012年5月に公表している。原発の再稼働には、県知事がそれに同意をする必要があるが、現在(2012年10月1日時点)の新潟県知事である泉田裕彦氏は、新潟県のWebサイトにて2012年6月8日付けで大飯原子力発電所の再稼働に対して安全対策が完了していない中での再稼働に対してのコメントを掲載しており、簡単には再稼働に応じる気配はない。

そうした現状を踏まえた消費者が取る行動の1つとして節電による電力料金の抑制が考えられるが、現代社会において、むやみやたらに電気をまったく使わないという生活を送るのには無理があるだろう。そこで電力の使用量を抑える切り札の1つになるのが「電力の見える化」だ。それぞれの機器がどの程度、電力を消費しているのかが分かれば、それを元に対応策を取ることが可能となる。

その根幹をなすのが「スマートメータ」であることは以前レポートさせていただいているので、そちらを参照していただくとして、では具体的に消費者やメータベンダがどういうことをすれば、そういう機能を活用できるようになるのか。例えばマキシム・インテグレーテッドが中心となって推進しているスマートグリッド向け電力線通信規格「G3-PLC」では、見える化のためのWebサービスのUI構築などは別として、ハードウェア面における技術的な課題はないという。つまり、リファレンスを元に基板を起こしてしまえば、必要な機能を活用することが可能となるのだ。ただし、実際に日本の家庭で使おうと思えば、機器とゲートウェイ間の接続が無線の場合、AOSSやらくらく無線スタートなどの機能を搭載することは利便性の面から求められることとなる。

マキシムは2010年4月にスマートメータ市場向けSoCベンダTeridian Semiconductorを買収し、その資産を得ている。Teridianの技術資産とG3-PLCなどの技術を組み合わせることで、スマートメータから家庭内(HEMSゲートウェイまで)および電力会社の通信ネットワークまで現在議論されているスマートメータに求められるあらゆる機能をもたせた確実な通信を実現することができるようになった

「家庭内向けには必要最小限の機能だけを搭載し通信や電力計測もできる小型で安価なSoCを我々が開発し、それらを家庭内の機器に搭載してもらえるようになると、見える化という意味ではHEMSターミナルで無線との連携など、規格づくりが日本でも進みつつあり面倒なことを考えずに対応できるようになるでしょう」とマキシム・ジャパンのマルチセグメント スペシャリストである工藤一彦氏は語る。

すでに導入が始まっているフランスのG3-PLCの場合、家庭側(低圧)と基地側(変圧器を超えた中圧)にコンセントレータ対応機器を設置するだけで、既存の電力線を使いよけいなコストをかけずに電力データのやりとりが可能となる。メータ1台あたりの価格は通信と計測部を一体化することで非常に安価でざっくり1万円程度の価格を実現しているという

Teridianの78Mシリーズ。スマートメータ用に用いられる71MシリーズからLCDドライバなどを非搭載にしたチップで性能自体は同様の高精度のまま電力や力率などまでも測定できる。各家電機器内蔵、家庭のコンセント、あるいは配電盤に接続して、その機器や家庭内配電系統ごと(8系統まで1チップで可能な製品群を揃えている)の電力使用量を測定、ホームゲートウェイなどにデータを送信する場合に使用される

真のスマートグリッドには安定したデータの送受信が必須

筆者としては、100円程度の安価なチップを作ってもらい、基板と必要な周辺素子をセットではんだ付けしてない状態で秋葉原などで2000~3000円程度で売られていれば、自分ではんだ付けをしてでも冷蔵庫、エアコン、洗濯乾燥機、電子レンジあたりの大電力を消費し、かつ使用せざるを得ない家電につけて、その電力量のチェックをしたいという気持ちはある。それでもさすがに自分だけではできないのは、通信機能を持たせてHEMS連携で集中モニタと管理を行い、外出先から見られたり制御ができるようにすることである。このような便利な真のスマートグリッド時代の到来により、より電力を効率的に使えるようになる日が待ち遠しい。

すでにWi-FiやBluetoothなどの無線経由で機器の電力使用量を調べられるサービスなどが一部で始まっているが、実は電力の使用量を送るだけであればそうした無線規格が打ち出している数Mbpsといった転送速度は不要だ。逆に言えば、無線であろうと有線であろうと、必要最低限の転送速度が365日24時間切断されることなく確保される方が重要だ(無線LANをお使いの人の中には、たまに何もしていないのに接続が切れたりして、その都度、ルータやモデムを再起動するという人もいるだろうが、その間の消費電力データが送れないということになれば、正確なデータのやり取りは不可能となる)。また課金されるべき正しいメータのデータがHEMSで見られることにはユーザとしても価値を感じるはずだ。

G3-PLCの家庭内部/周辺における活用イメージ。面倒な無線ネットワークの設定などを省きつつ、見える化が可能となる

そのため、G3-PLCは最大220kbpsの転送が可能であるが実際のデータの送受信は「最低30kbpsあれば十分。国内の電力会社などと共同で行ったテストでは通信帯域内で信号対ノイズ比(SN比)が-6dB(ノイズが信号の2倍)の普通は通信できないような環境下でも10kbpsの通信速度を達成しており、通信そのものを破たんさせることがないことが確認されている」(同)とするほか、さらに自動的に随時SN比をモニタし通信帯域の最適選択を行う機能( ATM:Adaptive Tone Mapping )などで、今後どのような新しい家電製品特有のノイズが出てきても対応(基本的には電安法で規制はされているのであり得ない)できる。

G3-PLCは普通は通信ができないようなSN比の環境においても通信が可能なことがすでに各所にて確認されている

こうした特長は絶対に途切れてはいけない電力メータが扱う通信を実現するための鍵となる。G3-PLCの最大の特長ともいえるのが外乱要因への高い耐性。電気機器などからは結構なノイズが発生するが、そうした環境下においても実使用条件下の試験でも安定したデータ通信が可能であることがすでに各所にて実証されている。これはG3-PLCが開発段階から実環境におけるノイズ耐性を向上させるために注力してきたもので、二重三重のエラー訂正技術などを盛り込み、さらにアナログフロントエンドの性能で磨きあげてきた技術によるものである。さらにネットワークでのルーティングやIPv6の対応など来るべき時代の要求を盛り込んだPHY/MAC仕様となっており、ITU-TとIEEEにおける標準化も進んでいる(ITUにおいてはG.9955 (PHY), G.9956(MAC)でCenelec仕様は承認済)。またすでに半導体チップサプライヤが数社に増えて来たことも社会インフラを支える部品として重要な部分である。

日本の発電(電力)事情は、原発の問題が(再稼働するにしても、廃炉に向かうとしても)解決されない限り、すぐに改善されることは考えにくい。太陽光や風力などのグリーンエネルギーに期待する人もいるが、安定した電力供給のためにはその発電量に見合うだけの蓄電池が必要となるものの、それも価格や蓄電容量などの問題があって、すぐに、とは言えない状況だ。しかし、電力料金の値上げはすでに実行されてしまっているし、また何時、値上げが行われるかもしれない状況は変わっていない(前述のとおり東電は原発再稼働がなければ値上げをすることを示唆している)。そうした意味で、無駄に浪費している電力部分を見つけ、そうした点を改めていくという視点での電力の見える化は、そう遠くない未来に消費者が求めるようになることは確実であろうし、それが安価で実現してもらいたいというニーズも出てくるだろう。そうした意味では、無線設備の投資もいらず、ソリューション自体も安価かつ既存の家庭内電力線(コンセント)に挿すだけで使え、そして確実に電力データをやり取りできるG3-PLCが、そうしたニーズに応えらえるソリューションの1つとして期待を背負うこととなる日が目の前に迫っていると言えるだろう。

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