コーヒーは一般的にくつろぎの時間や覚醒のイメージがあるが、その一方で健康に影響があるのではないかと懸念する人もいる。そんなコーヒーだが、近年、その成分に科学的に効果があるということが多数発見されるようになってきた。全日本コーヒー協会は9月13日、都内でそうしたコーヒーの医学的な効能を紹介するセミナーを実施した。

胃酸の分泌を促すコーヒーは、本当に消化管系統に影響を与えるのか

今回登壇したのは東京大学医学部付属病院 消化器内科の山道信毅 助教と、防衛医科大学の近藤春美 助教の2人。山道助教は、コーヒーの影響が上部消化管の主要4疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症(NERD))にどう及ぼすかを調べた。

上部消化管の主要4疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症(NERD))の概要

潰瘍の最大危険因子はピロリ菌で、これを退治することで潰瘍の発生率を大きく抑制できる。また、胃酸を抑えることでも抑制できるが、カフェインは胃酸の分泌を促すということで、どういった攻撃因子が潰瘍と関連しているのか、コーヒーが攻撃因子になりえるのかについて、9517人の健常成人の協力を得て、調査を行った。

今回の研究の概要

攻撃因子として比較対象となったのは、過去の似たような研究との共通項である「年齢」「肥満」「飲酒」「喫煙」「性別」「BMI」「ペプシノゲンI/II比(慢性萎縮性胃炎の指標)」「コーヒー摂取量」と、新たな対象である「ピロリ菌感染(抗体価)」を加えた9項目。結果として、コーヒーを飲むか飲まないかということと、主要4疾患の発生に有意なデータは出てこなかったという。「ストレスがたまると、自律神経が異常となり、胃酸の分泌が増すほか、胃酸からの防御因子の分泌が抑制される。コーヒーの場合、胃酸は分泌されるが、リラックス効果などによりストレスが弱まることが、影響しているかもしれない」と山道氏は語る。

この結果について、「1万人程度の大規模データの結果なので、ある程度信頼できると思う」と山道氏は語るが、今回の調査は1年間の横断解析であり、今後は現在コーヒーを飲んでいる人、飲んでいない人が3年、5年どう変化していくのか、という継続的な追跡を進めていき、その関係性を調査していく必要があり、2015年や2020年の状況も調査し、より詳しい相関関係を調べていくとしている。ちなみに山道氏は日に5杯はコーヒーを飲んでいるそうだ。

コーヒーを飲むと動脈硬化を抑制できるのか

一方の近藤 助教の研究は循環器系の話題で、「コーヒーポリフェノールによるHDLを介した抗動脈硬化作用」を調べたものであった。

日本人が一番ポリフェノールを摂取している食物は何かというと、実はコーヒーなのだという。動脈硬化はコレステロールと活性酸素が影響している。具体的には、肝臓で合成されたコレステロールをLDLが血管中を運搬するが、LDL(Low Density Lipoprotein:低比重リポタンパク)は酸化されやすく、活性酸素の影響により酸化LDLとなり、これをマクロファージが異物と認識し泡沫化マクロファージとして取り込み、これが血管中(血管壁)に蓄積され、血栓となり、動脈血管を肥厚し動脈硬化巣となる。HDL(High Density Lipoprotein:高比重リポタンパク)はこの蓄積された泡沫化マクロファージを、肝臓へと輸送する役割を持っていることから、一般的にLDLが輸送するコレステロールを「悪玉コレステロール」、HDLが輸送するコレステロールを「善玉コレステロール」などと評される。また、この一連の動きを学術的には「コレステロールの引き抜き・逆転送」と呼んでいる。

LDLとHDLの効果と動脈硬化発症のメカニズム

コーヒーと動脈硬化性疾患に関する研究の結果は、まちまちでかつては否定的であったり、どちらともいえないという意見が多かったが、この数年でポリフェノールにより有効に作用するという論も出てきている。近藤氏は、これまでの研究として、カフェ酸とフェルラ酸およびコーヒーによるマクロファージからのコレステロール引き抜き作用を

  1. THP-1マクロファージ様培養細胞を用いた実験
  2. ヒトの単球と血清を用いた実験
  3. マウスを用いたコレステロール逆転送実験

で検討してきた。今回は新たにハムスターを用いて実験を行ったという。ハムスターを用いた理由として、マウス、ハムスター、ヒトのリポたんぱく分画のプロファイルを比べると分かるが、マウスに比べて非常にヒトに近いものとなっているためで、ヒトで直接行えないのは、実験が血中、肝臓、胆汁、小腸、糞便の[3H]放射能活性を測定するためであり、さすがに人体に放射性物質を投与するわけにはいかないからである。

マウス、ハムスター、ヒトのリポたんぱく分画のプロファイル

雄雌をそれぞれコントロール(CE-2)食、コントロール+フェルラ酸(5mg/kg/day)食の2つの群、合計4群に分けて12週間、コレステロール逆転送実験を実施した。この結果、体重の差は4群ともに有意の差は認められなかったものの血清中脂質濃度は、オスの方が若干高いことが確認された。

また、放射性活性は血中から小腸までの差はほぼ認められなかったものの、最終系である糞便においてコントロールでメスの[3H]コレステロール量が増加したほか、フェルラ酸を投与したオスのハムスターはメスと同程度のコレステロール量の増加が認められたことから、コーヒーポリフェノールの日地上的な摂取はヒトにおいてもコレステロール逆転送を促進し、動脈硬化性疾患を予防していると考えられる結論に至ったとした。

4群の体重変化と糞便中の[3]放射能活性測定

ただし、コーヒーそのものにカフェ酸とフェルラ酸はなく、ポリフェノールの一種である「クロロゲン酸」が、小腸で分解されることでカフェ酸とフェルラ酸に変換される。そのため、「具体的にどの程度コーヒーを飲めば良いとは一概に言えない。しかし、コーヒーを飲んで0.5時間後にはコーヒーポリフェノールの効能がヒトでも確認されており、飲めばそれなりの効果を挙げているのであろう」と近藤氏はコメントしている。

コーヒーに含まれるポリフェノールの概要

また、同氏は「あくまでワインポリフェノールやコーヒーポリフェノールの成分が効能を発揮しているのであって、ポリフェノールだからなんでも良い、というわけではない。実際にお茶ポリフェノールでは、コレステロールの引き抜き能力を低下させることが確認されており、フェルラ酸などの物質そのものの機能が影響を及ぼしているものと考えらえる」とも語っている。