2007年8月31日、ボーカロイド・初音ミクがこの世に生を受けた。どんな音域でも歌いこなす歌唱力と、あらゆる世界観に和合するニュートラルなキャラクター性を併せ持つ初音ミクは、またたく間にインターネット世代のポップアイコンとなり、この5年間で日本はおろか世界をも席巻していった。音楽業界が「若者の音楽離れを打開せよ」と叫んでいた頃、まったく違う場所で新しい音楽のうねりが巻き起こっていたのだ。

そんな初音ミクの生誕5週年を目前に、ドワンゴが運営する六本木のライブハウス・ニコファーレにて、"ボカロ楽曲オンリー"のライブイベント「Voca Nico Night -Live Stage-」(以下、ボカニコナイト)が8月25日、26日の2日間にわたり開催された。

会場のニコファーレはヴェルファーレ跡地にあるドワンゴのライブハウス。全壁面にLEDモニターを配置しており、豪華な映像演出が可能だ

イベントの主役は「ボカロP」と呼ばれるアーティストたちである。音楽のジャンルも、年代も、何もかもがバラバラな彼らのただ一つの共通点は、ボーカロイドに楽曲を提供していること。つまりは作曲家であり、作詞家であり、プロデューサーなのだ。

ボーカロイドの功績を挙げればキリがないが、間違いなくそのひとつに数えられるのが、本来は裏方である作曲家にこうしてスポットライトが当たるようになったことだろう。ニコニコ動画という発表の場がコミュニティ化したことと、Twitterの流行により直接ファンとボカロPが交流できるようになったことが、さらに「ボカロP主役時代」の流れを後押しした。

その意味でボカニコナイトは、まさに"今"のインターネット音楽シーンを象徴するイベントだったといえる。

MCを務めたのは元AKB48メンバーの"えれぴょん"こと小野恵令奈

niconico関連のイベントは、いつもニコニコ生放送で中継されており、コメントまで含めた一体感も醍醐味の一つだ。そこで今回は初日はインターネットで視聴し、2日目は実際に会場まで足を運んで、リアルとネット、両方の空気感を味わってみることにした。

イベントに出演したボカロPは、初日に「とく」「じん(自然の敵P)」「ナノウ」「家の裏でマンボウが死んでるP」「KEI(NO LEAF CLOVER)」「koma'n」「バベルP」の7人。2日目に「doriko」「OSTER project」「まらしぃ」「ダルビッシュP」「buzzG」「やいり」の6人だ。バラエティに富んでいるのは名前だけでない。音楽性も演奏スタイルも何もかもがバラバラである。

熱いライブパフォーマンスで会場を盛り上げた「ダルビッシュP」

ギターの弦が切れるというトラブルを軽妙なトークで乗り切った「やいり」

たとえば「家の裏でマンボウが死んでるP」と「KEI(NO LEAF CLOVER)」は、普段は自身のバンドでギターボーカルを務めており、この日もバンドメンバーを引き連れボーカルとして参戦。このほか、「ナノウ」はアコースティックギター一本で弾き語りを披露し、「バベルP」「やいり」もギターボーカルとしてステージに立った。

ギタリストとしても一流の「buzzG」

普段は「演奏してみた」カテゴリで活躍する「まらしぃ」

とはいえ、ボーカロイドの声が聴けなかったことが観客や視聴者をがっかりさせたのかといえばそんなことはない。彼らが披露した楽曲は、いずれも数十万~数百万再生を達成しているニコニコ動画での大ヒット曲である。つまりは"そこにいる誰もが知っている曲"なのであり、これで盛り上がらないわけがないのだ。……続きを読む