―― ワールドタイムとホームタイムの入れ替えや、ズールータイムへ復帰なんて、一般の方はあまり使わないでしょうね。ただ、世界を飛び回る商社マンの方には便利かもしれませんね。それに、これを家族や友人に蘊蓄(うんちく)を語りながら見せたりしたらカッコイイかも(笑)。

斉藤氏「楽しんで使っていただくことで、航空の現場にも親しみを持っていただけると嬉しいですね。リアルな世界観とともにあるG-SHOCKでは、やはりこういう部分を積極的に採り入れていくべきだろうと思ったんです」

ステンレスベルトタイプの「GW-A1000D」のバックルには、G-SHOCKロゴがエンボス処理されている

樹脂バンドタイプの「GW-A1000」は手首に添うようにフィットする

斉藤氏「当初、GW-A1000はスマートアクセスと飛行間計測用のフライバック機能、そしてTRIPLE G RESISTの組み合わせをアピールするつもりでした。OCEANUSやEDIFICE(エディフィス)のスマートアクセスとはどこが違うのかと聞かれたら、フライバック機能があるんですよと。これが当初のストーリーだったんです」

フライバックとは、ストップウオッチ機能で計測中にリセットボタンを押すと、その瞬間、進んだクロノグラフ針がゼロ位置に戻り、連続的に何度も繰り返し計測を行える機能のこと。一般的なパイロットウオッチの顔ともいえる代表的機能だ。

「GW-A1000D」と「GW-A1000」はベルト以外にも差し色の有無など細部デザインが異なる

斉藤氏「ところが、RAFの話を聞いていても、フライバックの話なんてなかなか出てこないんですよ。それより時計としての使い勝手だったり、ワールドタイムへのこだわりやボタンのホールド操作の話が先なんです。彼らにとって、優先順位はむしろそちらなんですね。

だから、GW-A1000では、ホームタイム表示からモードボタンを1回押すとワールドタイムモードになる。ワールドタイムがすぐに使えるようにという配慮です。多くのパイロットウオッチは、ボタンの1回押しでストップウオッチモードになると思いますが、こんなところにもGW-A1000のキャラクターが現れていますよね。

ちなみに、通常、スマートアクセスのモデルは、モードボタンを押すたびにピッ!と音が鳴らないんですよ。でも、GW-A1000は鳴るんです」

「GW-A1000」は、尾錠(びじょう)だけでなく遊環(ゆうかん)も金属製

―― あっ、本当だ!

斉藤氏「OCEANUSの高級モデルで電子音が鳴ったりしたら、違和感があるじゃないですか。恥ずかしい場面もあるかもしれない(笑)。GW-A1000もG-SHOCKとしては価格が高めになりそうだったので、音を鳴らすのはやめようかという話もあったんです。

ただ、やはりRAFからの意見として、パイロットが常に時計をじっくり見ながら操作できるとは限らない、というのがありまして…。それなら、と鳴らすことにしました。ボタンを押すたびに音がすれば、ホームタイムモードで電子音が変わりますから、時計を見なくてもホームタイムに戻ったことが分かる。音がないと、時計を見ながら針の位置で判断しなくてはいけませんから」

―― 「感覚的に操作できる」というコンセプトが徹底していますね。音速を超える飛行機のパイロットが使うのに操作の手間が多かったり、いちいちダイヤルをよく見て操作が必要だったりすれば、それこそ命に関わる。

GW-A1000D

斉藤氏「そうですよね。ホームタイムモードで右上のボタンを押すと温度計が表示されるんですが、これなども同様の考えで作られています。針3本で温度を表示しますが、秒針は『+』か『-』、時針がセ氏10度の位、分針がセ氏1度の位を示します。しかも、10秒程度で自動的に元の表示状態に戻ります。

GW-A1000は見たいときにボタンを押して、温度を知ることができるというだけです。特別に「温度計モード」があるわけじゃない。なまじ温度計モードみたいな新しいモードを作ってしまうと、余計な操作が必要になり、ボタンを押しているうちに混乱してしまう可能性が増えます。あれ? 今何モードなの? となってしまうほうが困りますよね」

―― りゅうずが大きくて回しやすいのも、感覚的に操作するためなんですね。

斉藤氏「そうです。あまり小さいと使いにくいだろうと…。でも、大きくすると、G-SHOCKの場合、外装にバンパーを着けなきゃならない。どんどんバルキーな(かさばった、分厚い)時計になっちゃう。そこで悩んだのが、スマートアクセスならではのりゅうずのロック機構なんです。実は、この開発に2年かかりました」

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