サービス継続に欠かせないバックアップの高速化/効率化

金融業界においては、サービスのオンライン化や多様化が進み、情報システムの仮想化やクラウドの活用が進展するにしたがって、ITの運用環境は複雑化し、取り扱うデータも肥大化の一途をたどっている。

金融系企業は、こうしたIT環境の変化に対応するとともに、システムを長期にわたって停止させることなく、サービスを継続させるという重大な責務を担っている。本稿では、ある金融サービス会社の事例をもとに、サービスの継続に欠かせないバックアップ/リストアの高速化/効率化を実現するシナリオを解き明かしていく。

今回取り上げる金融サービス会社では、サービスの拡充に向けて、情報システムの仮想化に取り組み、すでに多くの業務システムを仮想環境に統合している。東京にある本番サイトは、SAN上にバックアップ・サーバとおよそ20台の仮想サーバ、数十テラバイトの大型ディスクアレイ装置やテープライブラリを接続する大規模なシステムである。また、大阪に災害対策サイトを設け、万一の障害に備えている。

バックアップ時間の大幅な短縮に挑む

CA Technologies シニアコンサルタント 渡邊結子氏

同社では、サービスの拡充/仮想化の進展とともに、バックアップ対象のデータの肥大化という問題に直面した。こうした問題の解決に向けて最初に取り組んだのが、災害対策サイトのバックアップ時間の短縮と効率化である。

同サイトは、災害時の復旧に特化していることから、仮想サーバやアプリケーションごとに細かくバックアップを行う必要はなく、処理の簡素化によってバックアップ時間を大幅に短縮できると考えられた。しかし、使用していた既存のバックアップ・ツールやその他のツールではそれを実現することはできなかった。

ツール探しを続けた結果、白羽の矢が立ったのが、日本CAのバックアップ・ソフトウェア「CA ARCserve Backup」である。決め手となったのは、同製品のオプション製品であるEnterprise Moduleに含まれる「rawバックアップ」機能だ。これは、バックアップ・サーバにマウントされたSAN上のディスクアレイ装置を生のデータのまま丸ごとバックアップする機能である。ファイル・システム経由ではなく、ディスク・ボリュームに手を加えずに、そのままブロック単位で全領域をバックアップすることから、raw (生データ) バックアップと呼ばれるものだ。

この機能を利用することで、ファイル・システムの種類に関係なく、ディスクアレイの生のデータをバイナリ・ファイルとして丸ごと物理ディスク単位で高速にバックアップすることが可能になる。

rawバックアップの導入効果について、バックアップ・ソフトの提供ベンダーとしてツールの導入を支援したCA Technologiesのシニアコンサルタント、渡邊結子氏は、「バックアップの処理がOSや仮想環境、アプリケーションに依存しないため、バックアップ時間を劇的に短縮し、運用を効率化できる」と説明している。

本番サイトにも採用、システム全体のバックアップ環境を一元化

同社におけるもう1つの課題は、複雑化するバックアップの運用を効率化することだ。同社では、重要な業務システムが仮想環境上でいくつも稼働しており、サービスの継続性を確保するために、仮想サーバやアプリケーションのオンライン・バックアップはもちろんのこと、詳細かつ厳格にバックアップの方法やスケジュールを設定している。しかし、バックアップ・ツールが統一されていなかったため、システムが増加するにしたがって、バックアップの運用が複雑化していった。

同社では、バックアップの運用の効率化に向け、災害対策サイトでのバックアップ時間の短縮で顕著な成果を上げたARCserve Backupに注目し、バックアップの柔軟性や管理の容易さなどを評価した結果、本番サイトと災害対策サイトを含むシステム全体に共通するツールとして採用し、バックアップ管理基盤を一元化する決断を下した。

金融サービス企業のシステム構成。本番サイトのストレージ機能でサーバボリュームのスナップショットを作成し、災害対策サイトへミラーリングしている。災害対策サイトでは、バックアップ・サーバにマウントされたディスクアレイ装置をrawバックアップしている。

本番サイトでARCserve Backup採用の決め手となった要因の1つは、ツールの柔軟性が非常に高く、多様なバックアップ/リストアに対応していることだった。

ARCserve Backupでは、仮想サーバやデータベースなどのさまざまなアプリケーションに対応するオンライン・バックアップ用エージェントが提供されている。物理環境から仮想環境まで幅広いバックアップ・ニーズに対応している。例えば、ファイル・サーバであればファイル単位のリストアはもちろんのこと、メール・サーバであればメールボックス単位というように、きめ細やかなリストアを実現することができる。

実際に、同社が必要とするあらゆるバックアップ・ニーズに対応し、バックアップ管理基盤を一元化できることが高く評価されたという。「例えば、期末のこの日だけは、この手法でバックアップしたいとか、このデータだけはこの周期でバックアップしたいといったさまざまな要望にも、適切な提案を行うことができた」と渡邊氏は語っている。

操作が簡単な管理画面が採用の決め手に

採用の決め手となったもう1つの要因は、使いやすく簡単なGUIで、システム全体のバックアップ/リストア設定を一目で容易にできることである。例えば、バックアップの初期設定や設定の変更も、バックアップの種類や対象、スケジュール、場所などをウィザード画面にしたがって操作するだけで簡単に行うことができる。

バックアップの設定画面。ウィザードベースで進めることができる

ARCserve Backupが導入されたサーバやストレージ、デバイスの各ノードを構成図で階層的に視覚化できるのも特長の1つである。システムの全体像を把握しながら、ドリルダウンで詳細情報を参照することができるうえ、仮想マシンの構成も、仮想マシン・モードに切り替えるだけで簡単に視覚化できる。

構成図の画面では、常に最新のバックアップ構成を確認できる。また、ジョブのステータスが色分け表示されるほか、モードを切り替えるだけで、仮想マシンの構成も確認できる

また、仮想環境のリストアに関しても、画面上で復元対象の仮想マシン名をクリックして選択するだけで実行できるほか、復元したいファイルだけを検索してリストアすることも容易に行える。

仮想環境のリストア画面では、一覧の中から該当の仮想マシン名を選択するだけ

ARCserve Backupの仮想ホスト単位のライセンスもコスト削減に大きく寄与している。これを導入すれば、仮想ホスト上に仮想マシンを何台追加しても、コストの増加を心配する必要はない。このように、選択肢の幅が広いのもARCserve Backupの魅力だ。

今回、金融サービス企業がシステム全体の共通バックアップ基盤としてARCserve Backupを採用した効果について、渡邊氏は、「バックアップ/リストアに関連するあらゆる情報をシステム全体で一元的に管理できるようになり、複雑な操作手順を覚える必要がなくなったことで、バックアップの運用負荷を大幅に削減することができた。ARCserve Backupは、複雑化する大規模環境にも対応するオプション、エージェント製品やバックアップを高速化するオプションなど、お客様のバックアップ・ニーズに最適な提案ができると自信を持っている」と力説した。

――バックアップ事例、続々公開中――