国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、「概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)」の一型である非同調型の発症に、体内時計周期の異常が関連していることを明らかにしたと発表した。成果は、NCNPの三島和夫部長、北村真吾研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、7月30日付けで医科学誌「BIOLOGICAL PSYCHIATRY」に掲載された。

近年、睡眠・覚醒リズムの異常を訴える患者が増加している。同じ時刻に眠ることができず、睡眠時間帯が毎日1時間ほど遅れてゆく睡眠障害だ。よって、毎朝に決まった時刻での起床も困難であるため、学校や会社でも遅刻を繰り返してしまう。その結果、欠席や休職などで引きこもりがちな生活になってしまい、さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥る。月の半分以上で日中に起きていられず、海外旅行から帰ってきたような時差ぼけ症状に苦しみ、社会生活に大きな支障が生じてしまうのである。

不眠症とは異なり、自分の寝やすい時間帯では良眠できる(むしろ長時間睡眠)。このように睡眠時間帯を社会生活に合わせることができなくなるタイプの睡眠障害は概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)と呼ばれる。

代表的な概日リズム睡眠障害として、(1)明け方にようやく寝ついて昼頃に目が覚る睡眠相後退型(極端な夜型、昼夜逆転型)、(2)睡眠時間帯が毎日遅れてゆく非同調型がある。ともに慢性疾患であり、意志の力や家族の声かけなどでは治らないレベルであるため、患者の社会生活に深刻な影響を及ぼしてしまう。

非同調型の病因は不明だったが、体内時計の何らかの調節異常の関与が疑われていた。なぜなら、体内時計の調節に重要な環境光を感受できない全盲の方の約半数が概日リズム睡眠障害に罹患していること、視覚障害のない人でも時刻情報のない隔離環境下(洞窟内など)では同様の睡眠状態に陥るからだ。しかし、視覚障害がなく通常生活環境下でも非同調型リズムに陥る原因については不明だった。

今回の研究では、長期罹病している非同調型の患者6名、夜型生活者8名、標準型生活者9名が参加する形で、強制脱同調試験を実施。同試験は、昼夜や時刻がまったくわからない隔離実験室内で、14日間にわたり参加者に特殊な睡眠スケジュールで生活させ、その間に生じるホルモン分泌・体温リズム位相の変化を連続して測定することで、体内時計の周期を極めて精密に測定するという方法だ。

その結果、標準型生活者の体内時計周期は平均24.12時間(24時間7分)であったの対して、非同調型では平均24.48時間(24時間29分)と異常に延長していた(画像1)。ちなみに、人の体内時計の周期は25時間と書かれていることが今でもあるが、実はこれは古い方法で測定された値で、現在では正しくない。

なお、画像1は各タイプの睡眠表だ。横軸が1日の時刻(0~24時)で、黒の横棒が睡眠時間帯を示す。縦に約1カ月分の記録がある。標準型の睡眠時間帯は、23~6時前後。夜型では2~7時前後(出社のために無理に起床して寝不足となるため、週末は昼近くまで寝だめ)。睡眠相後退型では、明け方に寝て昼過ぎに覚醒。非同調型では、睡眠時間帯が日々後退していくのがわかる。

各タイプの睡眠表。画像1(左)は標準型と夜型で、画像2は睡眠相後退型と非同調型

強制脱同調試験で精密測定した標準生活者の体内時計周期は平均24時間10分前後、23.9~24.3時間の範囲にあり24時間にとても近いことが明らかになった。これは米国人のデータとほとんど同じだ。

それに比べ、今回の研究で確認された非同調型の周期は極端に長いことがわかる。標準型生活者との周期の差の22分は睡眠習慣に大きな影響をもたらすことがシミュレーション研究からも明らかにされた。

今回の研究に参加した患者では、周期が長いほど睡眠リズムを調節する治療(時間療法)の効果が得られにくかったことも、非同調型の発症と治療経過に体内時計の周期の長さが重要な役割を果たしていることを示唆している。

今回の研究では、一部の夜型生活者でも非同調型に匹敵する長周期が認められた。実際、それらの被験者は昼夜逆転に近い生活に陥っていることが確認されている。夜型生活者の中には、失業などで社会生活の縛り(目覚ましなど)がなくなったり、体内時計調節に重要な日照が弱くなる冬季などに非同調型を発症するケースが知られていた。

また、概日リズム睡眠障害の患者の多くでは、幼少時からの夜型傾向も見られる(環境ではなく体質が強く関連)。今回の研究により夜型と非同調型との間にも睡眠リズムが崩れやすくなる共通の生物学的基盤が存在することが明らかになったというわけだ。

画像3(左)は、実験室の模様と部屋の構成、メラトニンの分布リズム(上が非同調型でしたが標準型)。画像4は、試験期間中の1日当たりの位相のズレをまとめたグラフ

現在は24時間社会となっており、夜勤従事者も就労者の20%以上に達するなど、睡眠リズムが不規則になっている人々が増えている。このような生活環境下では、体内時計周期が長い人は睡眠リズム異常の大きなリスクを抱えている状況だ。そのため日照を活用し、規則正しい就床、運動、食習慣を心がけるなどの対策が必要だと研究グループでは説明している。

画像5。リズム同調障害から始まり、体内時計の異常、そして睡眠リズム異常に至る

また、今回の成果に対し、非同調型をはじめとする概日リズム睡眠障害の診断やハイリスク者の同定、治療予後の判定に応用されることが期待されるとコメント。現在、患者から取得した皮膚細胞を培養して体内時計の調節に関わる「時計遺伝子」の機能の解析を進めており、それによる周期をより簡便に測定する技法の開発に取り組んでいるとしている。