東京大学医学部附属病院(東大病院)と徳島大学病院(徳大病院)は、「近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement:HMSN-P)」の原因遺伝子が、「TRK-fused gene(TFG)」であることを世界に先駆けて発見し、同時にHMSN-Pと「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」との間には共通した運動神経細胞死のメカニズムが存在することも見出されたと発表した。

成果は、東大病院 神経内科の辻省次教授、徳大病院 神経内科の梶龍兒教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国人類遺伝学雑誌「American Journal of Human Genetics」8月号に掲載の予定だ。

HMSN-Pは日本に多い疾患で、成人期に発症し、進行性に生じる近位筋優位の著明な筋力低下と筋萎縮・線維束性収縮(筋のひくつき)が主要な症状である。進行期には四肢末端の軽度の感覚の障害が見られることもあるものの、その中核的な病変は脊髄運動ニューロン(運動神経細胞)の進行性の変性が主な所見として観察され、またALSとの病態の類似性が指摘される運動ニューロン病の1種として位置づけられる疾患だ。

これまでに、HMSN-Pに関わる遺伝子が「第3染色体長腕」にあることは知られていたが、原因遺伝子自体は何であるのかは明らかになってはいなかった。

今回の研究では、徳大を中心に2家系24名、東大を中心に2家系8名のHMSN-P患者の協力を得て、東大病院ゲノム医学センターにおいて遺伝子解析研究を実施。具体的には、次世代シーケンサと呼ばれる高性能のDNA配列解析機器を用いて患者DNAの大規模なゲノム配列解析を行い、1名の患者で20万1223個の塩基配列の変化が見出された。

これらの中から、「連鎖解析」による疾患遺伝子座の絞り込みや、「ゲノム情報解析」を駆使した絞り込み作業により、疾患発症に関わる変異として、1つの塩基置換にまで絞り込むことに成功したのである。この変異が全家系の発症者に共通して観察されることを見出し、TFGがその原因遺伝子であることを明らかにした形だ。

徳島大学における病態生理の解析の結果、HMSN-Pにおいては運動神経細胞にTFGタンパク質の異常な蓄積が観察され、TFGが病因遺伝子であることを強く支持する結果が得られたのである。

さらに興味深いことに、同疾患の脊髄運動神経細胞において、遺伝性ではない多くのALSに特徴的であり、その病態機序の上で重要と考えられている、「TDP-43」の細胞質への異常な蓄積が観察された。培養細胞を用いた実験でも変異TFGを発現する細胞に特異的に、細胞質へのTDP-43の異常蓄積が生じることが観察されたのである。

これまでの研究により、TDP-43の異常な蓄積はALSの運動神経細胞死に深く関わっていることが判明済みだ。今回の研究成果は、HMSN-PとALSにおいて共通の分子メカニズムによる運動神経細胞死が起こることが示唆された。

研究グループは、今回の研究成果によって、HMSN-PやALSを初めとした運動神経細胞死の病態解明と新規治療法がさらに進むことが期待されると、コメントしている。