日本原子力研究開発機構(JAEA)は、欧州と進める幅広いアプローチ(BA)活動において、核融合炉の燃料を効率よく生産するために必要な材料として高温で安定なベリリウム金属間化合物「ベリライド」を量産化できる新たな合成技術を確立し、これを用いて核融合炉で使用可能なベリライドの微小球を製造することに成功したと発表した。

成果は、JAEA 核融合研究開発部門 ブランケット照射開発グループの中道勝グループリーダーらの研究グループによるもの。今回の成果については特許申請中であり、6月28日から神戸で開催される第9回核融合エネルギー連合講演会で発表予定だ。

核融合炉燃料のトリチウムは、核融合反応で生じる中性子をリチウムにあてて生産する(画像1・上)。この時、より効率よく燃料を生産するために中性子の数を増やす中性子増倍材が不可欠だ。

これまでの候補材である金属ベリリウム(Be)は、600℃以上の高温で体積膨張(スウェリング)や水蒸気との反応による水素生成が大きくなり、高温域で不安定になる欠点がある(画像1・右下)。

画像1。中性子増倍材の役割と先進材開発の必要性

そこで注目したのが、ベリリウムの金属間化合物のベリライドというわけだ。ベリライド「Be12Ti」を例にすると、スウェリングが3%以下(Beは約50%)、水素生成もBeの約1/1000と優れた特性を持っていることから、高温域でより安定なベリライドの製造技術開発を進めてきた。

画像2は、ベリライドの合成から微小球製造までのプロセスだ。材料の合成法としては、大きく「焼結法」と「溶融法」がある。焼結法の1つである「粉末冶金法」で試行した場合、均質な材料は合成できるのだが、Beのように酸化し易い材料の場合、表面酸化層を巻き込んで焼結するために非常に脆く、成型及び加工が困難だった。

画像2。ベリライドの製造プロセス

さらに、今回の方法では均質な材料を得るために焼結-粉砕を繰り返し行うため、工程が複雑になり、不純物の混入を抑制することも困難だった。次に、溶融法でも試行したが、組成が均一でなく、大型の原料を合成することが困難だった。

そこで、研究グループは原料粉末表面を活性化(清浄)できる手法を検討し、「プラズマ焼結法」に着目したのである。プラズマ焼結法は、原料粉末にパルス電流を与え、原料粉末の表面間に放電を発生させて表面を活性化して焼結する手法だ(画像3・左)。

そこで、BA活動の一環として青森県六ヶ所村の国際核融合エネルギー研究センターの原型炉R&D棟において、ベリライド合成試験を開始し、原料性状、温度、圧力、時間などの合成条件を最適化することにより、合成と接合が同時にできる技術を確立し、Beのように酸化し易い材料の表面酸化層など影響を受けずに、成型及び加工性に優れて脆くない棒状のベリライドを効率よく合成することに成功した(画像3・右)。

次に、このプラズマ焼結製のベリライドを回転電極法の電極棒として用いて微小球製造試験を実施。ベリライド造粒条件として、電極棒形状、電極棒の予備加熱条件、放電条件、回転数などを最適化することによって、ベリライド微小球を製造することに成功したのである(画像4)。

画像3。プラズマ焼結法によるベリライド合成及びベリライド電極棒製造

画像4。プラズマ焼結製ベリライド電極棒を用いた回転電極法によるベリライド微小球製造

今回の成果では、今まで合成すら困難であったベリライドを、脆くなく加工性に優れた棒状のベリライドとして効率よく製造することに成功した。そして、この棒状のベリライドを回転電極法による造粒時の電極棒として使用することによって、核融合炉で使用する目標形状である直径1mmのベリライド微小球を世界で初めて製造することに成功し、大量製造技術を確立したというわけだ。

この成果は、イーターでの燃料生産試験をより確実にすると共に、核融合原型炉に向けた燃料生産技術の確立に大きく貢献するものだという。また、同合成法は、軽量耐熱耐摩耗材の機械部品のアルミニウム系合金の合成(例えば車の高性能エンジン)など、広く一般産業分野への適用も期待できると、研究グループはコメントしている。