Q:CSSを回避するのは違法ではないのでは?

こういう疑問を持たれる方は、そうとう著作物保護技術に詳しい人だ。確かに、今まではその通りだったのだが、今回の改正の目的はずばり「CSSを、回避してはならない保護技術として認定」することなのだ。

少し面倒な話だが、著作物保護技術には「コピー制御」と「アクセス制御」の2つがある。コピー制御というのはいわゆる「コピープロテクト」で、どうやってもコピーさせないようにするもの。著作物が勝手にコピーされて違法に配布されないように、著作者の権利を守るための技術だ。これを解除することは、著作権法で違法行為とされている。

もうひとつの「アクセス制御」は、特定の機器でしか再生できないようにする技術。例えばDVDは、認証が行われているDVDプレーヤーやPCであれば再生ができるが、それ以外の機器では再生できない。著作権者の権利を保護するためでなく、販売をする企業や業界の経済的利益を守るための色合いが強い技術で、このアクセス制御を回避することは不正競争防止法で違法行為とされている。

分かりやすい例が"ファミコン"で、ファミコンは任天堂がハードウェアを製造販売し、任天堂の協力会社(サードパーティー)がゲームソフトの開発を行っており、この協力関係で利益を生みだしている。任天堂が全く認知していない人が「ファミコンソフトが遊べる機械」を勝手に作ってしまうと、任天堂は困ったことになる。そこで、任天堂はアクセス制御技術を導入して、ファミコンソフトはファミコン以外では遊べないようにした。こうして業界の利益を守っているのだ。

しかし不正競争防止法は、企業や業界の(正当な)利益を守るのが主眼なので、アクセス制御を回避するような装置、ソフトの製造や販売などは禁止しているが、個人がアクセス制御を回避してコピーすることに関しては禁じていない。もちろん、回避する装置やソフトは製造・販売が行えないのだから、どうやって手に入れるのかという問題はあるが、手に入れてしまえば、それを使うこと自体の違法性を問うてはいなかったのだ。

そして従来、DVDで使われているCSSは「アクセス制御技術」とみなされ、文部科学省の文化審議会などもそういった見解を示してきた。そこで、今までは市販のDVDやレンタルしたDVDをリッピングすることは違法ではなかった。CSS技術を回避するソフトの製造販売は違法だが、購入や使用に関しては違法ではなかったので、DVDをリッピングしたい人は海外サイトからそういったソフトをダウンロード購入して手に入れ、使っていたのだ。

ところが、今回の改正のポイントは、「CSSはアクセス制御技術ではなく、コピー制御技術である」という内容の附則を付け加えたことにある。コピー制御技術に関しては、すでに著作権法で、回避するソフトや装置を製造販売するだけでなく、使用すること自体も違法となっている。こうして、DVDのリッピングが違法となったわけだ。

「CSSがコピー制御技術であるかどうか」は非常に難しい議論で、これまで長い間にわたり議論されてきて、なかなか結論が得られなかった。それを今回、技術的にはでなく、政治的に決着させたということだ。ただし、この点は今後も技術者の間で議論を呼ぶことになるだろう。また、不正競争防止法ではなく、著作権法で禁ずるということは、他の著作物(書籍、雑誌、音楽など)にも影響を及ぼすし、アクセス制御の色合いが濃い技術を著作権法で扱うことは、著作権法本来の「著作者の権利を守る」という趣旨からはやや外れる点もある。ここも法律の専門家の間で議論を呼ぶことになるだろう。

Q:レンタル店が営業に行きづまってなくなってしまう?

今回の改正案により、近所のDVDレンタル店が消えてしまうという懸念を抱いている人も多いようだが、それは早計だ。確かにレンタルしたDVDをPCにリッピングすることは違法となるが、もともとそういった行為をしている人はきわめて限られていると思われる。多くの人は、レンタルしたDVDをプレーヤーなどで再生して楽しんで返却しており、「リッピングができないからレンタルしない」という人がDVDレンタル店の経営に大きく影響するほどの割合を占めているかは疑問だ。

さらに実をいえば、多くのレンタルDVDにはCSSだけでなく、さまざまなコピー制御技術が使われている。このようなコピー制御技術を回避してリッピングすることは、以前から違法行為だったのだ。

参院でも可決された場合は2012年10月1日施行となる

本改正案は、冒頭でも述べたように、現在は参議院に送付され審議中となっている。今会期中に成立せずに流れる可能性もなくはないが、仮に成立した場合、CSSを回避してのリッピングに関する規定は2013年1月1日2012年10月1日から適用される(※編集部注:当初、改正内容が施行される日付を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします)。なお法案成立へは強い反対意見もあり、今後の動向が注目される。