「FreeMiNT」に続く道

話は前後しますが、1990年当初はマルチタスクの重要性に注目が集まっていた時代です。TOSのマルチタスク化も考慮されましたが、TOSの拡張は現実的に不可能でした。そこでAtari Corpのエンジニアが注目したのはがEric Smith(エリック・スミス)氏がリリースした「MiNT(ミント)」。GNUの"Gnu is Not Unix"と同じく、"MiNT is Not TOS"という再帰的頭字語から名付けられた同OSは、当初UNIX風のシステムをTOSに移植しようとした同氏がTOSの実装に限界を見出し、新たに作り出したものです。

当時Atari Corp社員だったAllan Pratt(アラン・プラット)氏も開発に加わって、TOSとの互換性も保っていたMiNTは、Atari TT(68030ベースの新モデル。1990年にリリース)の実質的な新しいOSとして開発が進められていましたが、Pratt氏退職と入れ替わるようにSmith氏が同社に入社。更に完成度を高めてカーネル部分にMiNT、UI部分にGEMをマルチタスク化したAES 4を「MultiTOS」としてリリース。MiNTの再帰的頭字語も"MiNT is Now TOS"に変更されました。

MultiTOSは残念ながらパフォーマンス面に難があり、それほど普及しませんでした。そして前節で述べたAtari STシリーズの終焉に至りますが、MiNTの産みの親であるSmith氏は上司と掛け合い、ソースコード公開の許可を得ます。しかし、AES 4のソースコードは提供されず、OSとして使用することは事実上不可能でした。そのため、カーネル部分となるFreeMiNTは単独のプロジェクトとして、開発が進められています(図08)。

図08 FreeMiNTの公式ページ。現在はあまり更新されていません

その一方で必要となるのがMultiTOSのGUI部分となるAESの存在。多くのファンコミュニティによって、数多くのプロジェクトが立ち上がりました。残念ながらオープンソースベースの開発は、多くのユーザーがボランティア作業を強いられるため、中心人物の多忙による離脱など、いくつかの理由で自然消滅することが少なくありません。そんななかでも現在まで開発を続けているのが、1995年からイギリスで開発が始まったXaAESと、2003年5月にフランスで開発が始まったMyAESです(図09~10)。

図09 XaESSのデスクトップ。ウィンドウフレームはメニューバーにTOSの雰囲気が残されています(画面は公式サイトより)

図10 MyAESのデスクトップはフォント周りに特徴を感じます。現在でも着々と開発が続けられ、最新版は2012年2月にリリースされたばかり(画面は公式サイトより)

これらを実際に試すには、Atari STエミュレーターと前述のEmuTOS、FreeMiNTに好みのフリー版AESが必要。本稿で手順をつれづれと書くのも冗長な気がしますので、今回は見送りました。ご了承ください。

しかし、各OSのスクリーンショットを見るだけでも、Windows OSやMac OS Xといった、第一線のOSにはない趣味性が伝わってくるように感じるのは筆者だけでしょうか。機会や要望がありましたら、Atarianたちが生み出した空気を体感するため、新しいTOS環境にチャレンジしたいと思います。以上でTOSの紹介は以上です。ナビゲーターは阿久津良和でした。次回もお楽しみに。

阿久津良和(Cactus)

参考文献

・DIGITAL RETRO/Gordon Laing(トランスワールドジャパン)
OLD-COMPUTERS.COM Museum
The Unofficial XaAES Page
Wikipedia
・それは「ポン」から始まった/赤木真澄(アミューズメント通信社)
・パーソナルコンピュータを創ってきた人々/脇英世(ソフトバンククリエイティブ)