中部電力は5月14日、「超電導(超伝導)線材」に作用する電磁力をコイルの面で支える画期的な方法を東北大学金属材料研究所強磁場センターと共同開発し、さらに液状樹脂を用いた絶縁被覆技術と組み合わせることによって、従来のイットリウム系超電導コイルの2倍、金属系超電導コイルの6倍という、世界最高強度の電磁力に耐える「超電導コイル」の開発に成功したと発表した(画像1)。

画像1。同じイットリウム系だが、従来のものの2倍の強度を持つ今回の超電導コイル

超電導技術は、電気抵抗を発生させることがなく、損失なしで大容量の電流や強磁場を取り扱うことができるため、電力分野において大変魅力的な技術なのは、多くの人がご存じのことだろう。かつて起きたフィーバーほどではないが、エネルギーの高効率化には必須の技術のため、現在も日本でも世界でも研究・開発は脈々と続けられている。

中部電力もそんな研究・開発に関わっている企業の1つだ。現在、経済産業省資源エネルギー庁の国家プロジェクトとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から「イットリウム系超電導電力機器技術開発」の内、「電気をコイルに貯蔵する超電導電力貯蔵装置(SMES)の開発」を委託され、古河電気工業、東北大学、早稲田大学、京都大学と共同で次世代超電導コイルの開発を進めている。

SMESは、電気抵抗がゼロとなる超電導状態のリング(超電導コイル)に電流を流しても抵抗がないことを利用し、電流が減衰しないことから、電気エネルギーを磁気エネルギーとして貯蔵することが可能な仕組みを利用した電力貯蔵システムだ。大電力を瞬時に出力できる、電力の出入速度が速い、エネルギー貯蔵効率が高いといった特長がある。

今回の開発では、イットリウム系化合物の超電導線材(イットリウム(Y)・バリウム(Ba)・銅(Cu)・酸素(O)からなり、金属基板上に複数の薄膜を形成して構成されるテープ形状の超電導線材)を用いることで(画像1)、従来の金属系超電導SMESより、コンパクトでエネルギー容量が大きく、低コストな装置の開発を目指している。

画像2。テープ形状をしたイットリウム系化合物の超電導線材の層構造

なお、イットリウム系超電導線材は金属系超電導線材と比較して機械強度が強いことから、強磁場を必要とするSMESや医療機器、輸送機器などのマグネットへの実用化が期待されており、国内外で実用化に向けた開発が積極的に行われている最中だ。

超電導では、大電流により、強い磁場を発生させることができるが、超電導線材を伸ばそうとする強い電磁力が働く。これまでの超電導コイルは、線材が電磁力を支える構造を採っていたため、超電導線材の強度による限界があり、より強い電磁力への耐性を持つコイルの開発が望まれていたのである。

今回のコイルの最大の特徴は、超電導線材に作用する電磁力をコイルの面で支える高強度コイル構造である(画像3)。超電導コイルに大電流を通して強い磁場を発生させると、超電導線材を伸ばそうとする強い電磁力「フープ力」が働く。超電導線材の強度をフープ力が超えると、コイルが破壊されてしまうというわけだ。

今回の開発では、超電導線材に作用する電磁力をコイルの両方向の側板で支えることによって、超電導線材の強度の限界を超える電磁力に耐えることができるようにしている(画像3)。

画像3。左が従来のコイルの構造で、右が今回のコイルの構造。側板により強度が大幅にアップしている

それにより、金属系超電導コイルの電磁力に対する耐力は300~400MPa(100MPaは、直径1mmの糸で8kgの重さのものを吊ったときに糸に加わる力)程度、イットリウム系超電導コイルでも超電導線材の強度の限界である1000MPaが最大だったが、大幅に上回る2000MPa級の電磁力に耐えることが可能となったというわけだ。現時点では、ダントツの世界最高強度の超電導コイルというわけだ。

この仕組みはコイルの大型化による強い電磁力に効果を発揮し、コイルのエネルギー容量をコンパクトサイズでアップさせる可能性を持てるようになったのである。

また、開発には液状樹脂による超電導線材の絶縁被覆技術もポイントとなった。超電導コイルの電気絶縁技術は、従来、樹脂テープを超電導線材に巻く手法が採られていた。しかし、樹脂テープの切れや偏りによって絶縁性能の低下やコイルの寸法精度の悪化が生じたり、加工しにくいなどの問題があった。

さらに、電線によく見られるエナメル状の被覆は、硬化させる処理温度が高いため、イットリウム系超電導線材の特性に影響を及ぼしてしまうため、使用できなかったのである。

そこで、今回は超電導特性を低下させないような温度で硬化が可能な液状樹脂を世界で初めて超電導線材被覆に適用し、曲げに強いフレキシブルな絶縁被覆を形成することに成功したというわけだ。これによって、前述の問題を解決し、絶縁性の確保と加工性の向上を両立したのである(画像4・5)。

画像4。イットリウム系超電導線材と絶縁被膜の層構造の顕微鏡画像と模式図

画像5。左が樹脂テープを巻く絶縁を施した従来の超電導線材の外観で、右が今回の超電導線材の外観

今回の超電導コイルのスペックは、以下の通り。

  • コイル形状:外径280mm×高さ25mm
  • 通電電流:1500A以上@4.2K(約-270℃)
  • コイル内最大磁場:10T
  • コイル電磁応力:1700MPa以上(従来実績の10倍)

絶縁被膜に関するスペックは、以下の通り。

  • 絶縁樹脂:低温硬化型変性ポリアミド樹脂
  • 被膜層厚さ:40μm
  • 絶縁性能:10kV/25μm(AC.BD)
  • 熱伝導率:2W/mK(従来の絶縁被膜の10倍)

ちなみに、今回のコイルを用いれば、例えばSMESでは、同じ大きさの従来のイットリウム系超電導コイルで10倍のエネルギーが貯蔵でき、またSMESだけでなく強い磁場を利用する全分野の超電導マグネットへ適用可能だ。

なお、「超伝導」という表記が一般的だが、電力業界では「超電導」という表記を用いることが多いため、今回の記事はそれに準拠している。