北陸先端科学技術大学院大学(JAIST) マテリアルサイエンス研究科の金子達雄 准教授、海老谷幸喜 教授らの研究チームは、植物細胞に含まれるポリフェノールの一種である桂皮酸類と天然鉱物であるハイドロタルサイトを用いて、高耐熱性と世界最高クラスの曲げ強度を持ったバイオポリエステルを開発したことを発表した。同成果の詳細は、独科学誌「Advanced Functional Materials」オンライン版に公開される予定。

植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオプラスチックは材料中に二酸化炭素を固定することにより、二酸化炭素濃度を削減し、低炭素社会構築に有効であるとされている。しかし、バイオプラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで力学強度の点で問題があるため、その用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されるに留まっている。例えばポリ乳酸は代表的かつ高い強度を持つバイオポリエステルだが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、その力学強度は60MPa程度、ケナフ強化型で135MPaと報告されている(一般的なポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレンなどの汎用プラは20~70MPa程度、工業用プラのポリカーボネートでも100MPa)。

これまで研究チームは、ポリフェノールの一種である剛直な構造の桂皮酸に注目し、中でも大麦から得られるパラクマル酸とサツマイモから得られるカフェ酸などから高耐熱性のバイオポリエステルを開発してきたが、力学強度が30MPa程度と低く、実用化を難しくしていた。

この強度は、アシドリシス重合を行う際の副反応による構造の乱れによるものであり、今回の研究では、桂皮酸類に、天然鉱物であるハイドロタルサイトを触媒としてポリエステル合成を試みた。

ハイドロタルサイト構造の概念図(表面に炭酸塩が存在)

その結果、スムーズにアシドリシス重合が進むことを発見し、これにより高配向性のバイオポリエステル樹脂を得ることに成功した。また、ガラス繊維の表面でこのポリエステルがうまく配向するというユニークな現象を見いだし、145MPaの力学強度、10GPaの弾性率、305℃の耐熱温度を持つスーパーエンジニアリングプラスチック並の性能を持つバイオポリエステル樹脂を作製することに成功した。

具体的には、パラクマル酸とカフェ酸を60対40のモル比で混合し、無水酢酸の存在下ハイドロタルサイトを0.4~0.8%(対モノマー重量)程度混合し150℃で2時間、200℃で4時間加熱攪拌した。この結果、粘性の高い物質となり、続いて自然冷却することで樹脂状の固体が得られたという。

パラクマル酸(4HCA)とカフェ酸(DHCA)を用いたバイオポリエステルの重合反応式

さらに、得られた個体を粉砕、50mm×6.5mm×3.5mmの鋳型に入れ、同時に5mm程度のガラス繊維を鋳型の長軸に沿って共存させ、200℃で6MPaの圧力をかけて5分プレスし、そのまま冷却することで実現した。

従来、アシドリシス重合は、一般の液晶高分子樹脂にも使用されるなど広く知られた重合方法であるが酢酸ナトリウムなどの弱アルカリ性の塩やマグネシウムなどの金属を使用することがほとんどであり、これらの触媒は、表面が二酸化炭素などで覆われやすく本来の活性が失われやすいことが欠点であった。ポリフェノールにこのような一般的な弱アルカリ性の触媒を適用すると、反応が遅く長時間を要するため、時間とともに架橋などの力学強度を低下させる副反応が発生してしまうが、逆に、より強いアルカリ塩を使用すると別の副反応である加水分解が発生するため、今回は表面が二酸化炭素で覆われた状態で弱アルカリ性を示す唯一の物質であるハイドロタルサイトを使用することで、この問題を解決。ハイドロタルサイトが、アシドリシス反応で触媒の役目を果たすことを示したのは今回の研究が初めてだという。

また、明確な構造のバイオポリエステルを合成したことから、その剛直性がうまく作用しガラス表面で液晶配向性を高度に示すことが判明した。

バイオポリエステルの液晶模様。ハイドロタルサイト類を使用した場合(b、c、d)のポリエステルは明確なラインを示している

従来のポリエステルの場合には外力を与えて無理に配向させる必要があるため、ガラス繊維強化プラスチックを効果的に得ることが難しかったが、今回のポリエステルでは、その融解液をガラス繊維の上に乗せるだけで、繊維軸に沿って配向する現象が見られたという。

ガラス繊維の偏光顕微鏡写真。左はガラス繊維そのものの写真。黒っぽいエッジが見えるのみであり配向は確認できない。中央と右の写真はガラス繊維にバイオポリエステル融解液を少量混合したもの。試料を左上から右下へ斜めにおいた場合に色調がオレンジに見える(真ん中)が、これを90度回転することによりブルー(右)に色調変化した。これは配向試料の特徴である

その結果、作成方法で示されたように、ガラス繊維を入れて融解状態で圧縮するだけで配向性の良い高強度プラスチックとなることが判明。これにより140MPaの力学強度、10GPaの弾性率、305℃の耐熱温度を持つスーパーエンジニアリングプラスチック並の性能を持つバイオポリエステル樹脂が実現された。

(a)はガラス繊維の量に対するバイオポリエステル樹脂の力学強度の変化。ガラスの量が増えると最大140MPaまで上昇することを確認。挿入図は樹脂の構造の模式図。(b)は30%ガラス繊維混合樹脂の剛性率の温度依存性。Tanσがピークを示す305℃が軟化温度。室温で7GPaの剛性率(10MPaの弾性率)を示している

なお、研究チームでは、天然鉱物であるハイドロタルサイトの新たな利用法の開拓と、フェノール系ポリマーがより効率よく合成できる可能性が見いだされたとしており、天然物の中には数多く存在するポリフェノールをバイオプラスチック原料として利用することができるようになったとしている。また、今回得られた高性能バイオポリエステル樹脂は、比重が1.3程度であり金属と比較して小さいことから自動車などの輸送機器への応用も期待できるとしている。