宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月27日、JAXAトップヤングフェローのポシャック・ガンディー研究員、宇宙物理学研究系の山村一誠准教授、瀧田怜研究員の研究グループが、NASAの赤外線天文衛星「WISE」が観測したデータから、これまで知られていない特異な性質を持つ赤外線天体を発見したことを発表した。同天体は、太陽のような低質量の星が進化の末期に起こす熱核融合反応の暴走現象に伴う突発的な塵とガスの噴出現象を起こしていると考えられるとしており、こうした噴出現象を現在進行中の状態で捉えたのは世界で初めてで、低質量星の進化末期や宇宙の物質循環の研究に重要なインパクトを与えるものだという。同成果の詳細は、米国天文学専門誌「The Astrophysical Journal」の5月20日発行予定号に掲載される。

同研究グループは、WISEで観測された2億6000万個の天体データを、地上から観測された「2MASS」と呼ぶ4億7000万個の天体リストと比較し、1つの奇妙な天体「WISE J180956.27-330500.2」を発見した。同天体では、2MASSの波長2μmより短い波長と、WISEの観測のうち12および22μmでは非常に明るいが、WISEの3.4および4.6μmではとても暗いといった、通常の天体の性質では説明できない波長による明るさの不一致が確認されたのである。また、日本の赤外線天文衛星「あかり」では明るく見えているものの、米蘭英によって打ち上げられた赤外線天文衛星「IRAS」の観測データでは見えていないという現象も確認された。

これらの現象から研究グループでは、IRASの観測は1983年に行われ、2MASSは1997~2001年、あかりは2006~2007年、WISEの観測は2010年に行われており、1983年から2000年前後までの間に、赤外線で急激に明るくなり、その後ゆっくりと暗くなっているのではないか。しかも単に暗くなるだけでなく、より長い波長の赤外線を放つ、すなわち温度が下がっているのではないかと検討を行った。

具体的には、今からおよそ15年前にこの星から大量のちりとガスが宇宙空間に放出され、放出された直後のちりはまだ暖かく、2MASSでも観測される短い波長の赤外線で輝いていた。しかし、ちりが星から遠ざかるにつれ温度が下がり、WISEやあかりで観測される波長の赤外線を放つように変わってきたという仮説を立てた。また、放出されたちりの量はおおよそ地球1つ分で、その100倍以上のガスも同時に放出されたと考えられるともしている。

太陽のような比較的軽い星は、進化の最終段階で赤色巨星となる。この際、星の内部では炭素と酸素からなる核を、ヘリウムと水素の層が二重に取り巻くが、条件によって、水素の核燃焼によって徐々に溜まったヘリウムが、数万年に一回、瞬間的に燃えるということが理論的に予測されている。このヘリウムの激しい燃焼エネルギーにより、大量のガスやちりが短期間に星から宇宙空間に放出されることとなる。過去にこうした「突発的質量放出」が起きた証拠は、いくつかの星で知られており、あかりによる詳細な研究が進められている。

しかし、実際に赤色巨星からガスやちりが噴出した直後の様子をリアルタイムで捉えた例はこれが初めてだといいう。年老いた星からのガスやちりの放出は、次世代の星や惑星、あるいは生命を作る材料を供給している、宇宙の営みの重要な一過程であり、研究グループでは現在、世界中の天文台や観測装置を使って、追観測を行う計画を進めており、近い将来、この天体の素性が明らかになり、我々の太陽の運命についてもより詳しい予測が出来るようになるかもしれないとコメントしている。

図1 左上のオレンジ色に輝く星が今回見つかったWISE J180956.27-330500.2(WISE J1810)。この赤外線画像は、WISE12、22μmデータをそれぞれ緑と赤、IRAS 12μmのデータを青として三色合成したもので、15年間の技術の進歩を反映して WISEの画像の方がずっとシャープに星を映し出している。明るい星の周囲には青く広がる光芒がみられ、1983年にIRASも観測していたことがわかるが、WISE J1810だけは IRASで見えておらず、最近になって急激に明るくなったことがわかる(画像提供:NASA/JPL-Caltech)