大阪市立大学 大学院医学研究科の福本真也 講師らの研究グループは、注射針で細胞と一緒に筋肉注射できるタイプの細胞足場粒子を開発したことを発表した。末梢動脈疾患の患者に対して行われる血管新生療法の効果を高めるほか、治療法としての応用範囲の拡大も期待できるという。同成果は、4月19日発行の米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

日本での末梢動脈疾患患者は無症候のものを含めると100万人以上いると推定されており、中でも下肢切断の危機に瀕している重症下肢虚血の患者は10万~20万人と言われているが、その主な原因としては生活習慣病(糖尿病や動脈硬化)がある。

末梢動脈疾患患者に対する治療法としては、細胞移植による血管新生療法があるが同法は、現在、十分な治療効果を発揮しているとは言えず、特に糖尿病患者や透析患者ではその有効性が低下する。これは、移植した細胞が移植した場所からすぐに拡散し、移植2日後には30%未満の細胞しか留まっていないことが原因と考えられているためだ。

今回の研究では、世界で初めて注射針で細胞と一緒に筋肉注射できる細胞足場粒子(ナノスキャフォールド)を開発した。

細胞足場粒子(ナノスキャフォールド)

ナノテクノロジーを用いて、すでに臨床応用されているポリ乳酸などの生体吸収性ポリマー粒子に、ナノサイズのハイドロキシアパタイト(HAp)を均一にコーティングした。ハイドロキシアパタイトは骨や歯の成分でもあり、良好な細胞接着性および組織親和性を持つため、この粒子を移植細胞とともに筋肉注射を行うと、粒子は細胞足場(スキャフォールド)として移植細胞を局所に生きたまま長期間維持することができる。この結果、血管新生効果が約7倍高まり、救肢効果は約4倍となることが判明したという。

治療効果を増幅させるためのアイデア

また治療効果がなくなれば生体内で分解吸収されるため安全性が高く、ゼラチンやコラーゲンなどの生物由来成分を含まないため、未知の感染症の心配もないという特長があるという。

ナノスキャフォールドへの細胞癒着の様子

なお、すでに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)および科学技術振興機構(JST)の支援を受け、近畿大学・大阪工業大学・グンゼ・ソフセラとの共同研究として実用化研究と前臨床試験が進められており、将来的には製造技術の確立を図り、2015年から臨床試験を開始する予定だという。

下肢壊死の回避率比較

実際の治療方法のイメージ